02. 映画ライターが選ぶ2022年おすすめ配信オリジナル映画
『桜のような僕の恋人』(Netflix)
自分を好きでいてくれる人に出会えた奇跡に涙する
「僕は春がくると君のことを思い出すんだ。桜のような僕の恋人を」という詩的なセリフが印象的な映画『桜のような僕の恋人』は、「この恋は世界でいちばん美しい雨」などで切ない純愛を描く宇山佳佑さんのベストセラー小説が原作。
美容師の有明美咲(松本穂香)に恋をした朝倉晴人(中島健人)は、彼女に認めてもらいたい一心で、一度は諦めたカメラマンの夢を再び目指します。そんな晴人に美咲もひかれ、やがて2人は恋人同士に。しかし、付き合い始めて間もなく、美咲は人の何十倍も早く老いていく難病を発症します。中島さんは、トップアイドルとして見せる華やかなパブリックイメージを打ち消し、素朴でちょっと頼りない面もある青年を、松本さんは体だけ急速に老いていくという難病に冒される難役にそれぞれ体当たりで挑んでいます。
自分の病を知った美咲は美容師の仕事を辞め「老婆になっていく姿を晴人にだけは見せたくない」と、一方的に晴人に別れを告げるのですが、晴人は美咲に何が起きたのか知りません。”もし自分も美咲と同じ病気を患ったら”と考えずにはいられないし、”好きだけど、会いたいけど、老いた自分の姿を見られたくない”と葛藤する美咲の気持ちが痛いほど伝わってきます。
物語後半は、美咲の病気が発覚してからは切なく悲しいシーンが多いです。前半の晴人と美咲が夢に向かって行く姿や、デートシーンといった2人がキラキラとまぶしく輝いていたからこそ、より強い印象を残します。
私が特に印象に残っているのは、作中何度か出てくる美咲の部屋の襖のシーンの中から2つあります。ひとつは、美咲がノーメイクのときに突然家に訪ねてきた晴人から「すっぴんを見せてほしい」と言われ、恥ずかしくてマスクで隠してしまうシーン。恋が始まったころの初々しい2人のやり取りが微笑ましくて、キュンとします。もうひとつは、映画の後半で襖越しに晴人がその日の自分の出来事などを美咲に話すシーン。直接顔を見て話すことができないもどかしさもありながら、襖一枚越しにお互いの存在を感じていて、そこに流れる時間がとても愛おしく感じるのです。
辛く悲しいシーンも多いのですが、本作を観て思ったのは”限りある今と命の尊さ”と”人生の中で「好き」と言ってくれる人と出会えたことは奇跡だ”ということです。決して永遠ではない時間の儚さと、好きな人と一緒に時を重ねていける尊さを、この作品から教えてもらった気がしました。2人が恋人として過ごした時間はわずか3カ月ですが、思い出はずっと2人だけのものとして残り続けていく。それがこの作品の希望になっているのではないかと感じさせてくれます。
文/根津香菜子
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監督:深川栄洋
原作:宇山佳佑『桜のような僕の恋人』(集英社文庫刊)
出演:中島健人、松本穂香、永山絢斗、桜井ユキ、栁俊太郎、若月佑美、要潤、眞島秀和、モロ師岡、及川光博