02. 映画ライターが選ぶ2022年おすすめ映画
『決戦は日曜日』:日本で数少ない良質なポリティカルコメディ
もっと評価されていい傑作だと思う。DREAMS COME TRUEの名曲(「決戦は金曜日」)をもじったタイトルだが、中身は日本映画では数少ない良質のポリティカル・コメディだ。実際に起こった政治ゴシップや珍ネタの数々――世襲議員たちによる漢字の読み間違いや、意味不明の失言などのパロディでがっつり笑いを取りつつ、空疎さに満ちた日本独特の政治状況を鮮やかに戯画化していることに感嘆してしまう。
お話は地方政界を舞台にした風変わりなバディものだ。保守政党・民自党の大物議員を父親に持つ二世議員候補のお嬢様・川島有美(宮沢りえ)。若くして政界のシステムに身を浸しきっている、事なかれ主義の議員秘書・谷村勉(窪田正孝)。このW主人公――最初はパワーだけはある勘違いお嬢様と、惰性で仕事する死んだ目をした青年のでこぼこコンビだったが、共に選挙戦を戦う中で、やがて澱んだ現状への疑問を共有する関係になり、周りには内緒で“ある秘密計画”をふたりで立てる展開となる。
監督・脚本は坂下雄一郎(1986年生まれ)。彼は業界ものに独自の才を見せてきた気鋭だ。『神奈川芸術大学映像学科研究室』は学生映画、『エキストランド』は地方の映画製作、『ピンカートンに会いにいく』はアイドル業界‥‥。こういったひとつの世界の裏舞台を風刺的な目線で描く喜劇。その延長に今回の地方政界がある、というわけだが、『決戦は日曜日』は”日本社会の縮図”と呼べるほどの視野の広さと鋭さがあり、ひとつの集大成と言っていい精度と面白さに満ちている。
坂下監督によると、女性を主人公にした政界コメディドラマとしてはHBOドラマ「Veep/ヴィープ」からの影響が大きいらしい。さらにアダム・マッケイ監督の諸作――特に『ドント・ルック・アップ』は、シニカルな社会派ブラックコメディとして『決戦は日曜日』との親近性が高い。だがアメリカの映画やドラマシリーズが、良くも悪くもダイナミックな政治風刺を描くのに対し、坂下監督が注視するのは”のれんに腕押し”的な無力感や脱力感だ。どうせ何をやっても変わらないよ――そういった諦念から、ぐずぐずのぬるま湯に浸りきったまま抜け出せない。これはまさしく、いまの日本社会を覆うネガティヴな精神そのものではないか。
もちろん、だからと言って斜に構えた姿勢に終始するのではなく、わずかな未来への突破口を捜し出そうとする映画でもある。「政治を変える」とか「世界を変える」といったありがちなヒロイズムの昂揚を安易に描くのではなく、体制側のメカニズムを徹底して分析的に見据えること。そのうえで希望の光を模索する。先ほどシニカルと記したが、本質を射抜く眼は真っ直ぐ。映画の後味は抜群だ。 宮沢りえは最高。豪快に空回りしながらも、打たれ強くてポジティヴなヒロインを堂々の貫禄で演じる。そして”受け”の芝居に徹した窪田正孝の巧さ。他に『ある男』や『マイ・ブロークン・マリコ』など、2022年は窪田の傑出した実力を改めて確認させてくれる1年でもあった。
文/森 直人
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脚本・監督:坂下雄一郎
出演:窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈、小市慢太郎、音尾琢真
配給:クロックワークス
©︎2021「決戦は日曜日」製作委員会
公式サイト kessen-movie.com
配信サイト Amazon Prime Video/U-NEXT