たくさんの映画作品が公開された2022年。作品が多くてすべて劇場で観られなかった方も少なくないと思います。otocotoでは、動画配信サービスで観られる今年のおすすめ作品を5回に分けてご紹介。
第2回のテーマは「謎と恐怖」。今年はホラーの当たり年だと言われており、世界水準の日本人監督の傑作スリラーに、呪術が世界を震撼させた恐怖映画が公開されました。そして多くの謎が散りばめら得れた哲学的でSFな物語も‥‥。深夜、ゆっくりひとりで観るのがおすすめです。
01. 映画ライターが選ぶ2022年おすすめ映画
『さがす』:気鋭の監督が描く世界水準の大傑作スリラー
映画ファンなら、間違いなく世界水準で破格のパワーを放つ気鋭監督、片山慎三(1981年生まれ)の名は絶対チェックしてほしい。長年の助監督生活を経て、ポン・ジュノ組の『シェイキング東京』(オムニバス『TOKYO!』より)と『母なる証明』の現場も経験。2019年には完全自主制作で取り上げた衝撃のデビュー作『岬の兄妹』をヒットさせた。続く初の商業用映画、長編第2作が『さがす』だ。これがもう掛け値無しのスリラージャンルの大傑作。 「2作目が肝心なんですよ」と、片山監督が以前語っていたことをふと想い出す。「ポン・ジュノの2作目は『殺人の追憶』。デヴィッド・フィンチャーだって『セブン』を撮っているじゃないですか」――と。
『岬の兄妹』の”兄と妹”に対し、『さがす』は”父と娘”を中心とする物語。メインの舞台は大阪・西成。「指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万円もらえるで」と口にしていた父・原田智(佐藤二朗)が、突然失踪する。必死に父親の行方をさがす中学生の娘・楓(伊東蒼)。他に東京・多摩の郊外と、香川県に属する離島が舞台となる。
片山自身が手掛けるオリジナル脚本(小寺和久、高田亮と共同)は複雑に設計された回り道の多いサスペンス構造で、それを本作の登場人物たちはスタミナを粘り強く保ちながら走り続けていく。作劇は三部構成の形式。画面いっぱいのド迫力で「3ヶ月前」「13ヶ月前」とテロップが出る。やがてループ状を描く時制のシャッフルから、黒澤明の『羅生門』やタランティーノの『パルプ・フィクション』といった定番モデルも脳裏をよぎるが、むしろ近いのはメキシコシティーを舞台にしたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『アモーレス・ペロス』だろう。娘⇒犯人⇒父の順に視座と主体のバトンリレーを行い、社会のボトムに蠢く有象無象を浚っていく。貧困、エロ、難病、障害、死。『岬の兄妹』と同様のハードコアなワイルドサイド。中学生の楓が勇敢な”探偵”役となって、濃厚な澱みが悪循環と共に渦巻く危険な沼――犯罪をめぐる事象の真っ只中に突っ込んでいく。
描写はかなりエグい。とりわけ蒼く尖鋭的な狂気を噴出させる山内照巳(清水尋也)の存在感は圧巻。また離島にたどり着いた山内が、たまたま出会ったジイさん(品川徹)がコレクションしている塩見彩のSMビデオに見入ってからの流れ――ユーモラスな光景からレッドゾーンにまで針が一気に揺れ動く、振幅のデカさも『さがす』の特異な魅力のひとつである。
他にも、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に苦しむ原田の妻・公子(成嶋瞳子)。自殺志願アカウントを通じて現われる、孤独な闇を抱えた女性ムクドリ(森田望智)。愛嬌たっぷりの中学教師(松岡依都美)や西成警察のおっさん(康すおん)なども含め、特濃の人間群像がボリューミーに展開されていく。 ことごとく役者陣が素晴らしい。その中でもやはりダメなお父ちゃん――原田智を演じる佐藤二朗と、『湯を沸かすほどの熱い愛』や『空白』を経て、いよいよ本領発揮の感がある娘・楓役の伊東蒼のコンビネーションが本作の生命線だ。ラストは超絶の名シーン。ちなみに片山慎三は、12月28日からディズニープラスで配信開始となる二宮正明原作のドラマシリーズ「ガンニバル」(脚本は『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ受賞に輝いた大江崇允)の監督も手掛けている。
文/森 直人
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監督・脚本:片山慎三
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹
製作幹事・制作・配給:アスミック・エース
©2022『さがす』製作委員会
公式サイト sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/
配信サイト Amazon Prime Video/U-NEXT