もしかすると『2020』と原作の最大の違いは主人公を変えたこと以上に、テーマに主語を付け加えたことであるかも知れない。主語が付くことでぼんやりしていた命題の輪郭が見えやすくなり、歩がどのような解を持つのかがクライマックスとなる。前記のように人によって前提が異なるので正解なんてものは無い概念だ。それはあくまで歩たちが考え気づき行き着く解となる。
湯浅監督は賛美でも批判でも無く中庸に描くことを意識したそうだが、僕はあのラストに恥ずかしさを感じてしまうほどの賛美と希望と「2020年ならその問にこう答える」ではなく「こう答えたい」という意思を感じた。同時に、自分がモヤモヤと感じていたのは「こう答えたい」が見つかっていないことであった事に気づかされた。大きな事を考えようとしすぎて主語を見失っていた自身の発見だ。大事なのは、歩たちの解をそのまま飲み込むのではなく、自分を主語にしたときに出てくる解を考えることにある。
製作期間を考えればコロナ禍まっただ中でこの作品が公開となったのは全くの偶然であるし、本来であるなら作中で東京オリンピックが持っていた意味も僕らは異なる受け止め方をしていたはずだ。時にフィクションは誰も予期せぬタイミングとぶつかることがある。もしコロナ禍が無く普通に公開されていたら、公開が来年に延期されていたら、その時にこれを見たら受け取り方は少し違っていただろう。それがプラスであったのかマイナスであったのかはわからない。とにかくこの作品はこのタイミングで世に出ることとなった。だが、コロナ禍での公開となったことでこの作品は「だから2020年が舞台なのだ」が作り手も設計できなかった意味へと少し変化し着地している。それは不幸なことばかりではないはずだ。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)
「日本沈没2020」
度重なる地震に見舞われ、沈み始めた日本列島。この未曽有の惨事に混乱しつつも、前向きに生き抜こうと模索する一家には、数々の試練が待ち受けていた。
湯浅政明監督が、小松左京氏のベストセラー『日本沈没』の初アニメ化に挑んだNetflixオリジナルアニメ『日本沈没2020』。
監督:湯浅政明
原作:小松左京『日本沈没』
脚本:吉高寿男
出演:上田麗奈、村中知、佐々木優子、てらそままさき、吉野裕行、森なな子、小野賢章、佐々木梅治
主題歌:「a life」大貫妙子 & 坂本龍一
(C) “JAPAN SINKS : 2020″Project Partners
Netflixにて全世界独占配信
日本沈没2020 | Netflix公式サイト:
https://japansinks2020.com/