Jan 18, 2019 column

『ラブライブ!サンシャイン!!』が描くアイドルと観客の関係は、現実を上書きする

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TVアニメ、および劇場作品において、アイドルアニメというのは一大ジャンルだ。もちろんアイドルを題材としたアニメ作品は古くからあるが、近年のそれはかつてのものとは大きく異なっている。さらに描かれるアイドルスタイルも変化し、実際の芸能界においてソロよりもグループアイドルが隆盛を誇っているのと同様、アニメでもグループアイドルが主流となっている。

16年に男性アイドルグループを主人公とする『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(通称:キンプリ)の応援上映が大ヒットをしたのは記憶に新しい。現実のアーティストによる劇場でのライブビューイングは以前よりあったが、このヒットは応援上映というスタイルを知らしめ、その後の劇場アニメ興行に大きな影響を与えた。それまでファンが直に作品のアニメアイドルに接する手段は出演声優や楽曲担当アーティストによるライブイベントなどしかなかった。対象が現実の存在ではないのでそれは当然だ。が、参加型上映の増加はアニメのアイドルを“直”に体験できる位置にまで引き連れてきた。

さて、先日より『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』の公開が始まった(https://lovelive-sunshinemovie.jp/)。 今作も大人気アイドルアニメの劇場版で、前作『ラブライブ!The School Idol Movie』(15年)はアイドルアニメに興味がなくても、そのタイトルだけは知っているという方も多いのではないか。それくらいの大ヒットとなった。

ご存じない人のために簡単にアニメ版にのみ絞って説明をしておくと、『ラブライブ!』はスクールアイドルという学校単位でのアイドルグループ部活動(のようなもの)がある作品世界。2010年に雑誌『電撃G’s magazine』の誌上企画としてスタートし、13年にTVアニメ化。このTVシリーズと前劇場版はμ’s(ミューズ)というグループのメンバーたちの活動を通しての青春劇を描いている。 一方で16年にスタートしたTV新シリーズ『ラブライブ!サンシャイン!!』は同じ世界観ではあるが登場人物を一新。μ’sに憧れた少女たちが静岡の高校でスクールアイドル・Aqours(アクア)を結成し活躍する物語。ゼロから始めた彼女たちが幾多の葛藤や挫折や壁に向き合いながらもそれを乗り越え、これまでに2期が放送されたTVシリーズではスクールアイドルの全国大会ラブライブ!で優勝するまでが描かれた。今劇場版はその後の物語となる(広く言えば、μ’s、Aqoursともに声優による同名グループのライブ活動など、その大きなメディアミックス展開すべてが『ラブライブ!』であるのだが、本記事ではあくまでアニメ版に絞ることとする)。

前劇場版がμ’s編の完結作とも言える物語であったのに対し、今作は『サンシャイン!!』TVシリーズのその後。9人からなるAqoursを引っ張ってきた3人の先輩が卒業した喪失感の中、残ったメンバーでAqoursを続けていくことへの模索と再始動が描かれる。「0から1へ」と走り続けてきた彼女たちが、その1の先をどのように見据えるか?という葛藤と決意のドラマはAqours(アクア)編にとって中間のエピソード、もしくはターニングポイントとなる位置づけだ。

今作もキャラクター同士のやりとり、海外パート(今作ではイタリアに行くこととなる)などが楽しめるが、やはり『ラブライブ!』シリーズにおいて、いやアイドルアニメにおいて最大の見せ場は随所に入るライブシーンだ。歌にあわせて描かれるダンスはこれまでのシリーズ同様に手描きと3DCGを用いた映像で描かれているが、驚くのはそのCGで、もはやCGであることを感じさせないレベルとなっている。おそらく現時点でトップクラスのセルルックCGではないかと思う。正直、僕には手描きなのかセルルックなのかわからないカットもあった。アニメシリーズ初期の映像と比べても大きな進歩が目に見えて感じられる。

だが、今作であらためて僕が興味をひかれたのは、『ラブライブ!』シリーズのライブシーンにおけるオーディエンスの描き方だ。アイドルアニメのオーディエンスは作品によってはただの“観客という記号”以上のものがないモブであるし、作品によってはこの観客の存在が大きく物語にも関わってくる。見ている間はあまり気にもとめないが、描き方によってその作品がどういう方向性で何を描こうとしているのかを示している重要な存在だ。