Feb 27, 2018 column

辿り着く先で彼女たちが見つけるものとは?普通の女の子たちが南極を目指す青春アニメ『宇宙よりも遠い場所』

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彼女たちが目指す“何か”“どこか”は何なのだろう?作中ではマリたちが東京に出向くエピソードもあるが、この作中で(少なくとも彼女たちにとって)東京は、多くの地方の娘たちが憧れて行きたくなるような場所としては描かれていない。 目的地はもちろん南極だ。だが彼女たちが目指しているのは、地図上に存在する具体的なその場所なのではなく、その南極という最果ての地に象徴されるところなのではないか。自ら踏み出して決意を持ち進んでいくところ。南極を目指すのは成長そのものの比喩だ。すぐにたどり着ける場所ではない。一歩づつ。少しづつ。だからそこは「宇宙よりも遠い」。

この作品には他にも見所が多い。南極に行くと行っても、もちろんツアーなどではない。主人公らが目指すのは作中オリジナル設定の、南極の夏期3ヶ月の滞在で観測に向かう「民間観測隊」への参加だ。(それゆえに高校生も参加できることとなる) この「女子高生が南極に行く」という大嘘を成立させるためのディテールはかなり細かく、それらをきちんと描くことで嘘とドラマにリアリティを与えている。序盤の館林市での日常描写や風景の緻密さはもちろんだが、南極に向かう諸々についてもだ。制作協力には文部科学省、国立極地研究所、海上自衛隊、『しらせ』などの現実の南極観測に関わる多くの機関や識者が入っており、その取材もあちこちに反映されている。 短い中で出発までに受けなければならないルート工作や野営訓練の描写。向かうための南極観測船『ペンギン饅頭号』は設定上は「二代目『しらせ』の改装船」ということになっているが、その描写はもちろん『しらせ』実船の取材に基づいており、見ていると作品にディテールを与えるため以上の「へえ」がある。 ちなみに「南極観測船」の所管は海上自衛隊で、海自・防衛省では「南極観測船」ではなく「砕氷艦」と呼ぶのだそうだ。 主人公4名のキャスティングも人気実力とも高い女性声優陣で、彼女たちがくりひろげるとぼけたやりとりの妙も楽しめる。

これを書いている現在、彼女たちを乗せた観測船は南極大陸を取り巻く激しい海流を抜けたところだ。目の前には氷山が漂う海が広がり、南極はすぐそこにまで迫ってきた。強い思いを背負った民間調査隊の大人たちと共に、南極に無事にたどり着けるのか。たどり着いた先で何が起こるのか。そこにたどり着くことで彼女たちの前に広がる景色どのように見えるのか。そこまでにどのように成長をしていくのか。

見ていて毎週自分でも困惑するほど、なにげないセリフについうるっときている。彼女たちの成長を感じさせる一言。しかしその一言が自分にも問いかけてくる。僕らはかつて思った“何か”と“どこか”に、たどりついたのだろうか?この物語の行く先には、視聴者である僕らが忘れていた何かも見せてくれるような、そんな予感がするのだ。アニメでありオリジナル企画だからこそのワクワク感に、いま、毎週の放送が楽しみでならない。

幸い最近のアニメは多くのサービスでの配信も行われているので、シリーズ中盤あたりで評判を知ってからでも見ることが出来るのがいいところだ。配信の詳細は作品の公式サイトを見ていただきたい。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)