さらに厳密には「美少女プラモ」として発売されているわけではないが、アニメ『ガンダムビルドファイターズトライ』に登場する美少女型改造ガンプラ『すーぱーふみな』をはじめとしたモビルスーツコスチュームを装った美少女キャラクターの“ガンプラ”がリリースされている。(美少女プラモではなく、あくまでガンプラなのだ)
他にもボークスの『FIORE(フィオーレ)』、コトブキヤの『メガミデバイス』。さらに今後アオシマからは『マクロス』に登場する可変戦闘機をモチーフとした「メカ美少女」の可動プラモが発売予定…と、参入もまだまだ増えそうで当分この勢いは止まりそうにない。
どのメーカーの物も開発に工夫が凝らされていてそのまま組むだけでもそれなりのものが出来てしまうが、ちょっと一手間かけるだけでさらに良くなる。好みの色に塗ったり改造ができるというのもプラモデルならではの強味であり魅力だ。自作したドール服を着せて楽しむ女性ファンも現れた。ユーザーの楽しみ方も多岐だ。
楽しみ方は製品を手に取ることだけでは無い。設計にデジタルが用いられるようになった今でも最終的な調整は人間によるものだし、それが美少女プラモとなれば最初の原型は人間による手作業になる。それをどうデジタル設計に落とし込み、どのようなパーツ構成として設計をし、どのようにすれば可愛く柔らかさの感じられるものになるかの最終調整をするのか。箱を開けたときのランナー状態から。そして組んでいく過程。さらに出来上がった物。それぞれのセンテンスで技術への想像を“読む”と、そこに現代のモノ作りの基本と応用が詰まっていることに驚かされるし、そのこともなんとも楽しい。
個人的には「日本スゴイ」的な論旨の記事は好きではないのだが、プラモデルの設計開発技術は多くの日本人が目を向けずあまり知られてはいない、それでいて日本人特有の細かいことへのこだわりが凝縮された工業技術の結晶だ。「美少女プラモデル」も例外ではない。高い設計技術が反映されているだけではなく、難しかった“可愛い”の再現を見事に両立させた“美少女プラモ”に用いられている技術は世界トップクラスのものだ。ドキュメンタリー番組などで取り上げられてもいいのでは?と思うほどなのだが、物が物だけに社会的な評価がされていない不遇な分野だ。(実際、秋葉原などのホビーショップでは、製品を見て驚いている外国人オタク観光客の姿もたびたび目にする)
「美少女プラモブーム」は新しい流れや可能性も生み出している。1つは模型市場の新規客だ。かつて激減していた戦艦模型と戦車模型分野に、数年前の『艦これ』と『ガールズ&パンツァー』によって突如として新たなファンが増加し市場に活況が戻った。それと似た現象が起こっている。もう1つは、『フレームアームズ・ガール』に代表されるようにアニメ製作市場への新たな出資の呼び込みが生まれたことだ。最大のリクープ手段であるソフトパッケージの売れ行きが減少している中、これまでの製作スキームに頭打ちが見えはじめたとは近年たびたび見聞きする話だ。これからのリクープをどこに求めるのか、新しい製作(出資)はどこにあるのか?はアニメ市場の課題だ。
模型メーカー・コトブキヤが、自社オリジナルコンテンツのアニメ化を自社も出資するかたちで参入したことは、今後アニメ製作参入を考える企業などにとって先駆けでもあり新たなモデルの1つとなるかもしれない。(似たケースとしては、先日までWOWOWで放送されていたドローン競技を題材とした日中合作アニメ『ロボマスターズ』の製作もドローンメーカーのDJI自身による物だった)
今やコンテンツビジネスはこれまでアニメとは無関係であったような企業や業種とも深く関わるようになっている。それを考えたとき、この「美少女プラモ戦国時代」も模型市場という小さい世界だけでのことだけではなく、広い化学変化を生み出していくことになるのかもしれない。このことが来年以降にどのような影響を生み出していくのかは楽しみだ。
と書き終わったところで、僕は『轟雷ちゃん』の改造作業に戻る。思いつきで改造を始めたら収拾がつかないことになってきてしまったよ…。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)