最大の魅力は頑張って勝利する、それだけ
一方の代表チームの面々は個性的だ。サッカー協会会長のトップは、カメラマン兼レストランオーナーという何でも屋みたいな存在。エースストライカーのジャイヤは、島で最も影響力を持つスター。「ファファフィネ」と呼ばれる存在で、男性と女性の世界を行き来する「第3の性」の持ち主。ほかにも、31ゴールを決められ、引退したゴールキーパーがいる。サッカーだけでメシを食っているプロはいない。スカウトされた警察官もいる。
それも、映画用に作ったキャラクターではなく、実在の人物がモデル。実際のジャイヤ・サエルアはFIFAワールドカップで世界初のトランスジェンダー選手。同性愛や性同一性障害に悩む人の希望の光になっている。代表チームの公式サイトによれば、35歳の今でもサッカー選手として活躍しているようだ。
そんなジェンダフリーの問題も盛り込みながらも、この映画の最大の魅力は、深刻ぶらずに気楽に見られることだろう。ちゃぶ台をひっくり返すようで、申し訳ないが、前述のサモアのお国事情、サッカーの知識などは一切いらない。頭の中をからっぽにして、目の前に起こったことを見ればいい。そこは、ワイティティの手腕である。
ダメな人間が頑張って、勝利をもぎ取る。それだけの話だ。アパルトヘイトにスポーツに立ち向かったネルソン・マンデラ大統領と選手たちを描いたクリント・イーストウッド監督の『インビクタス/負けざる者たち』(2009)のようなシリアスさはない。どちらかと言えば、『がんばれベアーズ』(1976)くらいの気軽さだ。見ていると、僕らも頑張れば、できるかも、と思える等身大のヒーローなのだ。それがいい。
ちなみに、現在の米領サモアの成績はどうか。FIFAランキング(2024年2月15日時点)によれば、全210位中、186位に位置しており、その後も弱いながらに奮闘しているのが分かる。
筆者も、サッカーファン。地元のJEFユナイテッド市原千葉のサポーターでもある。ジェフはJリーグ発足当時に誕生した10チーム(オリジナル10)のひとつだが、2010年にJ2リーグに降格。以来、5度プレーオフに挑戦してきたが、2012年、14年の決勝戦では、1点に涙を飲んだ。 “ネクスト・ゴール”(=1点)の重みを痛いほど分かっているだけに、ゴールシーンに釘付けになった。
文 / 平辻哲也
2001年、サッカーワールドカップ予選史上最悪の 0-31の大敗を喫して以来、1ゴールも決められていない米領サモアチームに、次の予選が迫っていた。破天荒な性格でアメリカを追われた鬼コーチ、トーマス・ロンゲンが就任し、立て直しを図る。果たして奇跡の1勝は挙げられるのか‥‥!?
監督・脚本・製作:タイカ・ワイティティ
出演:マイケル・ファスベンダー、オスカー・ナイトリー、エリザベス・モスほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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2024年2月23日(金・祝) 全国ロードショー
公式サイト searchlightpictures