Feb 22, 2024 column

敗者たちこそ1点の重みを知っている 人生の応援歌『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

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二つの敗者が一つになる

この実話は既に『ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』(マイク・ブレット&スティーブ・ジェイミソン監督、2014年公開)として、ドキュメンタリー映画化されている。しかし、こんな面白い話をハリウッドも逃すはずはない。本作はこのドキュメンタリーの権利を獲得しての映画化で、プロデューサーにはブレットとジェイミソンの監督コンビも名を連ねている。

メガホンをとったのは、ニュージーランド出身の映画監督、コメディアンのタイカ・ワイティティ。監督作には自らアドルフ・ヒトラー役を務め、米アカデミー賞では脚色賞も受賞した『ジョジョ・ラビット』(2019)、『ソー:ラブ&サンダー』(2022)などがあり、コメディやエンタメ作品に定評がある。ワイティティも「これぞ、究極に爽快な敗者の物語だ」と感銘を受けた。

『ネクスト・ゴール・ウィンズ』は、文化が違う、二つの“敗者”が出会い、違いを乗り越え、同じ目標に向かって、一つになる物語だ。

歴史的大敗の米領サモアのサッカー代表チームの救世主として現れる新監督トーマス・ロンゲンも米サッカー界から追放され、苦渋を味わってきた人物だ。

実際のロンゲンはオランダ出身のサッカー選手で現在67歳。70年代は名門アヤックス・アムステルダムのリザーブチームの一員で、トップチームでの経験はない。79年にアメリカに移住し、プロ選手として活躍。引退後は少年サッカーチームのアシスタント監督を振り出しに、01年からはU-20米国代表の監督を任され、07年、09年のU-20のワールドカップを指揮するも、11年に解雇されてしまう。

ロンゲン役は、ドイツと北アイルランドの両親を持つマイケル・ファスベンダー。娯楽作ではエイリアンシリーズの前日譚『プロメテウス』(2012)『エイリアン: コヴェナント』(2017)でのアンドロイド・デヴィッド役が印象深い。黒人奴隷の実態を描き、オスカーを席巻した『それでも夜が明ける』(2013)ではプランテーションの残酷な支配人役、『スティーブ・ジョブズ』(2015)のジョブズ役を務めたカメレオン俳優。そんな実力派がコメディでも見せてくれる。

最初に登場するロンゲンは少々気難しいキャラクター。過度なプライドを持っていて、馴染もうとはしない。選手に対しても、不遜な態度を取る。それが、選手との交流を通じて、変わっていく。彼の怒りに慣れてくると、激怒シーンが笑えてくる。そのキャラにはデフォルメもあるようで、ファスベンダーも「私が演じたのは実在するトーマス・ロンゲンではありません」と冗談交じりにエクスキューズを入れている。