デジタル部門から世界トップのVFXプロダクションへ――WETAデジタル
そんな映像づくりを可能にしたのが、これまでジャクソン監督の描き出すイメージを具現化してきたデジタルプロダクション・WETAデジタルだ。このような超大作のVFX視覚効果は効率化と質の向上を目的とし、複数社によって手がけられているのが現状だ。だが本作は堂々、同プロダクションが一社単独で視覚効果を担っている。
WETAデジタルは優れたVFX技術を有し、本拠地であるニュージーランドの基幹産業の一つといっていい。もともとはピーター・ジャクソンと盟友リチャード・テイラーの周旋によって発足した特殊効果スタジオ・WETAワークショップ(撮影セットやミニチュア、クリーチャー造形などの物理的エフェクトを担当)のデジタル部門として設立され、ジャクソン監督の『乙女の祈り』(94年)での30ショットに及ぶCGエフェクト作成が業績の起点となっている。
その後、氏のハリウッド進出作である『さまよう魂たち』(96年)で570ショットのCGエフェクトを手がけて規模を一気に拡大させ、そして『ロード・オブ・ザ・リング』三部作によって世界的にその名を大きく轟かせていったのだ。同シリーズではモーションキャプチャーをベースにしたクリーチャー“ゴラム”を創造し、CGアニメーションと俳優(アンディ・サーキス)の巧みな演技、ならびに感情表現を融合させ、デジタルキャラクターに一つの完成をもたらしている。またバーチャル環境での群衆シミュレーションシステム“マッシヴ”を生み出すなど、描写の必要に応じて新たなプログラム開発をおこなってきた。
その後はスタジオを維持させるために外注の仕事を積極的に請け負うようになり、『アバター』(09年)、『猿の惑星』新三部作(11~17年)や『アベンジャーズ』(12年~)など錚々たるタイトルの視覚効果を担当。今やピーター・ジャクソンの映画製作をフォローする存在ではなく、ILMやデジタル・ドメイン、フレームストアやダブル・ネガティブといった大手と比肩するプロダクションへと成長したのである。