2017年のエンタメ界を振り返ってみると、注目作のキーワードとなっていたのは“毒親”もしくは“過干渉”だった。テレビドラマでは、波留主演作『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK総合)、高畑充希主演作『過保護のカホコ』(日本テレビ系)が話題を呼んだ。11月から劇場公開が始まったスティーヴン・キング原作のホラー映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は父親の虐待や母親の過干渉に苦しむ少年少女たちがトラウマと闘う姿を描き、大ヒットを記録。12月19日(火)に最終回を迎える井上真央主演ドラマ『明日の約束』(フジテレビ系)も“毒親”問題を主題にした力作となっている。
関西テレビが制作する『明日の約束』は、井上真央扮するスクールカウンセラー・藍沢日向(あいざわ・ひなた)が子どもたちを翻弄する毒親たちと対峙する社会派ドラマだ。視聴率は10月17日にオンエアされた第1話が8.2%、2話以降は4~6%台で推移しており、決して高視聴率ドラマではない(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。だが、二面性の激しい日向の母親・尚子を演じる手塚理美、我が子を溺愛するあまり自殺へと追い込んでしまうセレブ主婦・吉岡真紀子を演じる仲間由紀恵らの熱演・怪演もあって、ネット上での反響は高い。
ミステリー色の強い『明日の約束』は脚本家・古家和尚のオリジナルストーリーだが、この番組企画のベースとされているのが2016年に出版されたノンフィクション本『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』(福田ますみ著、新潮社刊)。2005年に長野県丸子町(現・上田市)で起きたひとりの高校生の自殺をめぐって、保護者である高山さおり(仮名)と高校側とが裁判で争った事件の顛末を生々しく追っている。
井上真央が演じるような生徒に寄り添うスクールカウンセラーは『モンスターマザー』には登場しないが、我が子を死へと追い詰め、さらにはその責任を高校側や息子が所属していたバレーボール部に一方的に負わせようとする毒親のモンスターぶりには戦慄を覚える。【自分が気に入らないことがあると執拗に他人を攻撃する。その人が降参するまで攻撃をやめない。自分を正当化するためには手段を選ばず、事実でないことも大げさに吹聴する。次々に攻撃のターゲットを変える。口癖のように「死んでやる」「訴えてやる」「私には優秀な弁護士がいる。お前は負ける」などと脅迫じみたことを言う―】(『モンスターマザー』第七章「悪魔の証明」)。似たような状況に遭遇した人もいるのではないだろうか。
高山さおりは、地元では次男だけをかわいがり、自殺した長男はネグレクトしていたこと、虚言癖があることで知られていた。そんな高山から散々罵られ、殺人罪および名誉毀損で訴えられた校長や裁判に巻き込まれたバレーボール部員たちは災難としか言いようがない。とりわけ、10代の多感な時期に、チームメイトを自殺で失った上に長期間にわたって裁判騒ぎの渦中に投げ込まれた部員たちの心のキズの深さは計り知れないものがある。