諜報員イーサン・ハントの愛とジレンマ
シリーズも振り返ってみよう。
往年のテレビシリーズ「スパイ大作戦」をリブートした第1作(1996)は、クルーズが初めてプロデューサーとして名を連ねた記念作。監督にはサスペンス映画の巨匠ブライアン・デ・パルマを指名した。裏切りによって、疑惑の目を向けられたスパイ組織IMF(Impossible Missions Force、不可能作戦部隊)の凄腕エージェントが新たなチームを発足させ、真犯人を探す物語だった。
2作目『M:I-2』(2000)には香港映画『男たちの挽歌』シリーズで知られ、ハリウッド進出し、『ブロークン・アロー』『フェイス/オフ』などをヒットさせた香港の巨匠ジョン・ウーを起用した。殺人ウイルスの奪還作戦を描くもので、ジョン・ウーのお家芸というべき、2丁拳銃アクションと鳩が登場するのが印象的だった。
3作目『M:i:III』(2006)には、TVシリーズ「エイリアス」「LOST」で知られたJ・J・エイブラムスを抜てき。エイブラムスは後にシリーズの製作総指揮に回り、『スター・ウォーズ』『スター・トレック』シリーズのリブート作品を大成功させる。クルーズは「エイリアス」の大ファンだった。婚約者ジュリアとの結婚を控え、つかの間の幸せをつかんだイーサンが、訓練生の危機を救うために現場復帰することになる物語だ。
4作目『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)は『Mr.インクレディブル』や『レミーのおいしいレストラン』などのアニメ映画で知られるブラッド・バードが監督。爆破事件の犯人の容疑をかけられ、組織からも抹消されたイーサンと仲間が孤軍奮闘する。アラブ首長国連邦の首都ドバイの超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」(高さ828m)でのアクションが大きな話題になった。
5作目『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015)はクルーズ主演作『アウトロー』のメガホンを取ったクリストファー・マッカリーが監督。以降のシリーズを全てを手掛ける。ナゾの犯罪組織「シンジケート」に拘束されたイーサンを、ナゾの美女イルサが助ける。
6作目『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)は、盗まれたプルトニウムの奪還作戦。アクションはヘリからの落下、スパイラル飛行、バイクチェイス、ビルジャンプなどてんこ盛りだった。 全6作は全世界累計興行収入35億ドル(約4836億2581万円)以上、日本では累計興行収入360億円以上を稼ぎ出した。「ミッション:インポッシブル」シリーズは、作品ごとに少しずつテイストも変え、アクションシーンをスケールアップさせた。物語には必ず、裏切りと結束がある。そこに敵キャラとの駆け引きや愛も盛り込んでいる。スパイの愛は複雑な事情もあって、成就しない。そこにジレンマ、ドラマがある。
過去からのつながりと次回への布石
最新作の「デッド・レコニング」とは航行経路などから現在地などを類推し、進んでいく「推測航法」という意味。人類を脅かすと言われる兵器の2つのカギをめぐる争奪戦が描かれる。メイン・ストーリーだけではなく、イルサとの関係にも注目だ。
全シリーズに登場する天才ハッカー、ルーサー(ヴィング・レイムス)、小道具のエキスパート、ベンジー(サイモン・ペッグ)、イーサンに特別な思いを寄せるイルサ(レベッカ・ファーガソン)らレギュラー陣が再結集。前作から登場した謎キャラ、ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)も続投し、第1作でイーサンを裏切り者と疑ったキットリッジ(ヘンリー・ツェニー)も再登板した。
CGには頼らない、生身による限界突破のアクションには、手に汗握る。映画館を出る時は、ラロ・シフリン作曲のテーマソングを口ずさんでいること間違いなし。続きが気になるところだが、『PART TWO』が見られるのは、ストライキの次第だが、だいぶ先になりそうだ。
文 / 平辻哲也
スパイ組織IMFに所属する主人公イーサン・ハントと彼率いるチームの活躍を描く全世界で大ヒットの『ミッション:インポッシブル』シリーズ7作目。
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェニー
配給:東和ピクチャーズ
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
公開中
公式サイト missionimpossible.jp