仮想空間のアフリカで行われたVR撮影
本作の鑑賞にあたり、“超実写版”という多少の胡散臭さを感じる表現を目にした筆者は、「少しでもCGっぽさがあれば見抜いてやろう」と少々疑った目線で映画を鑑賞してみた。CGで何でもできてしまう昨今だが、どんなにお金のかかった映画でも、“CGっぽさ”というのは確実に存在する。ありえないものをリアルに描く場合は仕方がないものであるし、普段はそういうものだと割り切って映画を観ている。
しかし本作に関して言えば、CGだとわかって観ていて、さらに粗探しのような見方をしても、CGっぽいカットは1つも見当たらなかった。というよりも、実写にしか見えなかった。
驚くべきはその撮影プロセスだ。監督のファヴローは、本作をあたかも実写のように見せるために、“VRロケ”を使用した。まず実際にアフリカに行き、舞台となる場所をイメージして写真を撮影、それを持ち帰って最先端のCGで再現する。そこにCGの“動かせる動物”を配置し、VRに落としこむ。撮影スタッフは、スタジオ内でVRゴーグルをつけ、実際の撮影のように仮想空間のアフリカでロケし、仮想の撮影機材を使い、CGの動物たちに演技をつけて撮影したという。なんという回りくどい、手間のかかる手法だろうか。
しかしその効果はすさまじく、出来上がった映像はまるでドキュメンタリーの動物番組を観ているかのよう。カメラアングルも実際にできそうなアングルに抑えられ、CGが駆使された映画にもかかわらず、実写映画の撮影監督が撮影を行ったという徹底ぶり。さらに動物たちの姿もリアルそのもので、スタッフは完璧に見えた『ジャングル・ブック』でさえ満足していなかったらしい。皮膚と毛の多重構造、影、絡み、濡れ、汚れなどをさらにリアルにするべく、新しいプログラムが開発された。
“実際に撮影できないなら、実写にしか見えない映像を最高峰のCGで作ればいい”――これほど安直な考えを、これほどのクオリティで実現してしまうハリウッドにはただ拍手を送るしかない。
本作はすでに北米をはじめ世界で公開され、早くも世界興収は10億ドルを突破、記録的大ヒットを続けている。大ヒットした実写版『美女と野獣』と『アラジン』は、北米に次いで日本が2番目に高い興収を記録していることもあり、“超実写版”『ライオン・キング』が日本でどこまで数字を伸ばすのか注目が集まる。
1995年以降、世界最高のエンターテイメントコンテンツとなった『ライオン・キング』のリメイクは、“実写を超えてやろう”というディズニーの本気が注ぎ込まれた。なるほど、“超実写版”とはこういうことかと納得させられる、ものすごい映像になっているので、ぜひその目で確かめていただきたい。
文/稲生稔
命あふれるサバンナの王国プライドランド。未来の王シンバは、ある“悲劇”により父ムファサを失い、王位を狙う闇に生きるライオン、スカーの企みにより王国を追放されてしまう。新たな世界で彼は仲間と出会い、“自分が生まれてきた意味、使命とは何か”を知っていく。王となる自らの運命に立ち向かうために――。
監督:ジョン・ファヴロー
オリジナル・ソング:エルトン・ジョン、ティム・ライス
オリジナル・スコア:ハンス・ジマー
声の出演:ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ ほか
日本語吹替版:賀来賢人、門山葉子 ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2019年8月9日(金)公開
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公式サイト:lionking2019