Feb 01, 2020 column

映画的な楽しさに満ちた『ナイブズ・アウト』、俳優陣の魅力と数々のオマージュを解説

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“笑い”を提供する豪華キャスト陣の魅力

こう書いていくと、シリアスなミステリー作品かと思われそうだが、『ナイブズ・アウト』が、初のお披露目となった昨年9月のトロント国際映画祭以来、観客に愛され続けている理由は、大いに“笑える”点だ。その笑いを提供するのが、実力派オールスターの妙演である。“真犯人は誰か?”を最後の最後まで引っ張るミステリー映画で、もしビッグスターが一人出演していたら、そこに観客の目線が集中し、謎解きのおもしろさが薄くなってしまう。知名度が同等のキャストを集めることで、犯人探しのスリルも継続するわけで、『ナイブズ・アウト』のキャスティングは、そこで成功していると言っていい。

中心となるのは、事件を捜査する探偵のブノワ・ブラン。演じるのはダニエル・クレイグ。言わずと知れたジェームズ・ボンドだが、今回のブラン役は、ボンドと真逆の“頭脳派”で、しかもどこかとぼけた味わい。一族に聞き込みを始める登場シーンからして、その言動で笑いを誘う。スパイと探偵には共通点もあるので、クレイグにボンドのイメージを重ねながら観ると、その“外し方”がたまらなくおもしろい! しかもイギリス人のクレイグは、この役でアメリカ南部訛りの英語を話している。

容疑をかけられる一族の中で、独特のオーラを放っているのが、放蕩息子のランサム。演じるのは、クリス・エヴァンス。キャプテン・アメリカ役で、まっすぐな正義感が似合いすぎる彼が、本作では家族からも疎まれる、とことん陰険で胡散くさい男を演じる。このギャップもゾクゾクするほど楽しい。さらに『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)の軍人役など、映画に登場するたびに、どこか邪悪で、恐ろしいことを企んでいそうなムードを醸し出すマイケル・シャノンが、ブチ切れやすいダメ男という、こちらもイメージを覆すキャラを怪演。

一方で、従来のイメージを過剰に表現するのは、ジェイミー・リー・カーティスやトニ・コレットで、それぞれ『ハロウィン』、『ヘレディタリー/継承』(18年)も彷彿とさせる切羽詰まった表情をみせていたりして、セルフオマージュと言っていいかも。また、もっとも若いメインキャストで、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』で主人公の一人を演じたジェイデン・マーテルや、登場シーンは少ないが、85歳で死んだ作家の母親で“もう何歳なのか誰もわからない”という役を演じるK・カラン(実年齢は84歳で、死んだ息子を演じたクリストファー・プラマーより年下)など、全員がここまで強烈なインパクトを残しているのは、ちょっと奇跡的だ。看護士役のアナ・デ・アルマスは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』にも出演しているので、ダニエル・クレイグとの再共演にもイマジネーションが広がる。