Feb 01, 2020 column

映画的な楽しさに満ちた『ナイブズ・アウト』、俳優陣の魅力と数々のオマージュを解説

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『スター・ウォーズ』シリーズでも監督を務めたライアン・ジョンソンの新作は、彼自身が書いたオリジナル脚本でアカデミー賞にノミネート。映画批評サイト、ロッテントマトの満足度でも、批評家97%、観客92%と、圧倒的な高い支持を得ている。大富豪の謎の死を巡るミステリーという、“定番”の設定の本作が、なぜそこまで愛されているのか? キャストの魅力やオマージュなど、映画的な楽しさに溢れた本作を解説していこう。

古典ミステリーを意識したオリジナル脚本

2017年に公開された『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、シリーズファンの間では否定的論調が支配的で、監督のライアン・ジョンソンも槍玉にあげられてしまったが、野心的チャレンジを評価した人も多かった。そのジョンソン監督が起死回生とばかりに、オリジナル脚本で挑んだのが『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』である。

ジャンルは王道のミステリー。ライアン・ジョンソンの初の長編監督作で、サンダンス映画祭でその才能が認められた、2005年の『BRICK ブリック』が、女子高生の謎の死を巡るミステリーだったので、ある意味で“原点回帰”とも言える。この『BRICK』以来、すべての監督作で脚本も書いているだけあって、ジョンソンはライターとしての能力が優れており、自身も脚本作業を心から楽しんでいるというのが、新作『ナイブズ・アウト』から実感できるのだ。

大富豪であるミステリー作家が、85歳の誕生日を祝った翌朝、遺体で発見される。その状況から当初は自殺と断定されていたが、何者かが有名な探偵を雇い、捜査が始まる。誕生日に集まっていた一族と、彼の専属看護士や家政婦が、作家の屋敷に再び招集された。金持ち老人の謎の死。屋敷という限定した空間。どこか複雑な事情も抱えたような一族…と、まさにアガサ・クリスティーなど名作ミステリーのルールをそのまま使った設定。しかし前半から、一族それぞれのキャラクターや事件当夜の行動が、うまく整理され、なおかつテンポよく紹介されるので、観ているこちらも一気に事件の渦中に入り込んでしまう。このあたり、ライアン・ジョンソンの“つかみ”の巧さを実感できる。

舞台は現代のアメリカなのだが、どこか英国ミステリーの香りが充満する本作。ライアン・ジョンソン監督も「アガサ・クリスティーへのオマージュ」と語っているように、屋敷とその周辺のムードは、イギリスの小さな村という印象だ。スマートフォンや監視カメラという現代的アイテムも登場するのだが、基本はあくまでも探偵の推理。証拠やアリバイについても、人物そのものの言動が重要になってくるので、古典ミステリーの味わいが意識されている。観客は、“本格派”の映画を観ている気分に陥っていき、これもライアン・ジョンソンの意図かもしれない。

ミステリーのお約束どおり、欲望も渦巻く犯罪劇は意外な真実を明らかにし、さらにそこからひとひねり。探偵と一緒に謎解きを楽しんだ我々観客も、呆気にとられるようなオチが用意される。伏線の回収も抜かりがないうえに、現代社会が抱えるシビアなテーマをサラリと盛り込んだあたりも、この『ナイブズ・アウト』の魅力になっているのだ。