女性を主人公にした政界コメディドラマとして、坂下監督によると本作はHBOドラマ『Veep/ヴィープ』(2012年~2019年)からの影響が大きいらしい。確かにアメリカの映画やドラマシリーズなどでは、生き馬の目を抜くパワーゲームを背景とした政治風刺劇がよく作られる。対して『決戦は日曜日』の場合は、すべてがぐずぐずのぬるま湯に落ちていく。本作が差し出す「のれんに腕押し」的な無力感や脱力感は、日本社会で生きる者として非常にしっくりくるものだ。
この独特と言える日本的風刺性が見事に表現されたのは、高度に発揮されているシニカルなブラックユーモア性が要因だろう。「政治を変える」とか「世界を変える」といったありがちなヒロイズムの昂揚を描くのではなく、体制側のメカニズムを徹底して分析的に見据えること。
この冷静な眼によって、今の時代の矛盾や、政界と我々一般庶民の感覚や見方のズレなどの皮肉な構造を浮き彫りにしていく。例えばSNSで炎上して、市民団体の抗議が起こっても、すべてがお約束と化しており国もシステムも何も変わらない。どんなスキャンダルが起きても投票率は変わらず、支持率にも影響なし。ぐずぐずなまま固定されているような日本のリアリティとその問題点を、我々はこの映画『決戦は日曜日』を観ることで相当スッキリ整理することができる。
もちろん単なる「あきらめ」ムードに終始しては、それは良質のエンタテインメントとは言えない。この映画は「希望」の光も誠実かつ絶妙に打ち出す。選挙事務所に据えっぱなしで掃除をしていないサーバーから出てくる、ドブ水みたいなコーヒーのように、腐敗した組織の内部から最後の良心が立ち上がってくる。
娯楽映画としての後味は抜群だ。画期的なマスターピースの登場に全力で拍手を贈りたくなる。また選挙戦の結果が出た時、画面の中のテレビでさりげなくコロナ禍の始まりがニュースで伝えられる――この皮肉な描写も見逃さないでいただきたい!
文 / 森直人
とある地方都市。谷村勉はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。秘書として経験も積み中堅となり、仕事に特別熱い思いはないが、暮らしていくには満足な仕事と思っていた。ところがある日、川島が病に倒れてしまう。そんなタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立ったのは、川島の娘・有美。谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放、世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々。でもまあ、父・川島の地盤は盤石。よほどのことがない限り当選は確実…だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす。それは選挙に落ちること・・・前代未聞の選挙戦の行方は?
脚本・監督:坂下雄一郎
出演:窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈、小市慢太郎、音尾琢真
配給:クロックワークス
©2021「決戦は日曜日」製作委員会
2022年1月7日(金) 全国公開
公式サイト kessen-movie.com