Jan 06, 2022 column

日本的風刺性と希望の光が共存する後味抜群な娯楽映画『決戦は日曜日』

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この映画は風変わりなバディものでもある。大物議員を父親に持つ二世議員候補の川島有美と、若くして政界のシステムに身を浸しきっている議員秘書・谷村(窪田正孝)。最初はパワーだけはある勘違いお嬢様と、惰性で仕事する死んだ目をした青年のでこぼこコンビだったが、やがて澱んだ現状への疑問を共有する関係になり、周りには内緒で“ある秘密計画”をふたりで立てる展開となる。

坂下監督の弁によると、実は脚本開発を始めた当初、男女が逆の設定だったらしい。議員が男性で、秘書が女性。だけどこの設定で脚本を書いていくうち、煮詰まった局面があった。そこで男女を引っ繰り返したら、物語の突破口が一気に開けたとのこと。まさしく男女逆転は決定的な変更だ。日本の政治の世界が男性優位の巣窟だという大きな視点が加わるし、ヒラリー・クリントンが言う「ガラスの天井」ではないが、社会進出における女性の抑圧的な立場などもよく見えるようになった。

川島有美のキャラクターには重層的な含みがある。天然の言動など非常に危なっかしいのだが、ニュートラルな眼を政界の澱みに向ける存在でもある。真っ直ぐな情熱もあり、ごく素朴な倫理観や正義感も持っている。また「二世の強さ」も描かれている。父親の才能と環境を受け継いでいて、打たれ強いし、ポジティヴだし、とりあえず堂々としているし。

彼女の政治家としてのイメージカラーは「赤」だ。坂下監督によると「情熱、怒り、生命力などを象徴する色」。赤と白のツートーンは日本国旗も連想させる。ちなみに川島有美が選挙事務所の屋上にのぼって、憂国的な演説調の言葉を吐くシーン。彼女を下から撮った画が、「楯の会」を従えて三島由紀夫が檄を飛ばす記録素材の構図にそっくり!撮影の月永雄太は『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(2020年 / 監督:豊島圭介)のカメラマンも務めていた人である。

だが、川島有美がどれだけ熱弁しても、悪い意味で「プロ」化した選挙事務所の面々には全然響かない。彼らは政界という「業界」のルールや慣習に適応しすぎて、自ら思考停止を推し進めているようなのだ。彼らの諦念――政治の現行システムに対する「あきらめ」の感情が、我々国民にも同様に広がっている。それはこの映画が提示する重要な視座のひとつかもしれない。

その事務所の面々の中で、唯一、川島有美に突き動かされて変容を見せるのが谷村だ。今では業界ルールに手堅く順応している彼も「初心」は今とは違ったんだろう。事なかれ主義に陥って、すべてを事務処理的にこなすようになった谷村に、川島有美というトリックスター的存在はいかなる影響を与えてくるのか‥‥?