Aug 11, 2023 column

第35回:誕生から64年の人形「バービー」が、全米大ヒット映画『バービー』となってアメリカ人が熱狂的に支持したワケ

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女優マーゴット・ロビーから動き出したバービーのIP

バービー人形のIP(知的財産)は、あらゆるスタジオで試みられたものの、最初に実写化に大きく踏み込んだのがソニー・スタジオ。映画業界紙メディア「デッドライン」にの掲載された記事には、ジェニー・ビックスという「セックス・アンド・ザ・シティ」のドラマシリーズや『グレイテスト・ショーマン』の脚本家が起用され、2015年には、有名な女性脚本家ディアブロ・コーディーにも執筆を依頼したというニュースで大きな話題となった。それでも映画はまとまらず、ヒラリー・ウィンストンほか、著名な女性脚本家によって、違う脚本が用意されたのち、2016年に、コメディアンでもある女優エイミー・シューマーがバービーを演じることを宣言。しかし、シューマーが他の仕事とのスケジュールが合わないことを理由に辞退。2017年には、女優アン・ハサウェイがバービー役の主演で2018年映画公開で動き出したものの、その予定も2020年に延期と発表されていた。

その低迷したプロダクションが動き出したのが2019年1月。バービー人形の製造元マテル社の新チェアマンでCEOイノン・クレイツ(Ynon Kreiz)が、バービーをばかにするようなコメディ映画はブランドの格を下げることを指摘し、マテル社はただのおもちゃ製造会社でなく、IPカンパニー,すなわち、フランチャイズのマネージメントに力を入れるべきだと主張。彼が赴任した2ヶ月後にはバービーのIPを取り戻し、女優マーゴット・ロビーを説得。そのあとにワーナー・ブラザーズが製作会社となったという経緯がニューヨーカー・マガジンに詳しく掲載されている。

ハリウッドで大活躍のマーゴット・ロビーのパワフルな演技はマーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』以来、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019) など、大物監督との仕事にも現れている。彼女が現在33歳の若さで、映画界で大きくリードした理由は、インディペンデント映画『アイ、トー二ャ 史上最大のスキャンダル』 ( 2017 ) 以来のプロデューサー業にある。自身のプロダクションカンパニー、ラッキー・チャップ・エンターテインメントは主演するDCコミックスのスピンオフ作品『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』シリーズ (2020~) でも有名だが、自身が出演していない、アカデミー賞でも話題となった『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020) のプロデューサーとしても、着眼力を発揮している。

この映画『バービー』のプロデューサーでもあるマーゴット・ロビーが、スタジオが用意した脚本家ではなく、女優で脚本家のグレタ・ガーウィグに脚本を依頼。グレタ自身が彼女の夫、『マリッジ・ストーリー』(2019) で監督・脚本を務めたノア・バームバックを共同脚本家に迎え入れたのが2019年の7月。その2年後の夏、グレタ自身が映画『バービー』映画の監督に決定。マーゴット自身、初めて読んだ脚本に感嘆したものの、斬新すぎる脚本の内容はハリウッドで映画化されるはずがないと半信半疑だったと、ヴァラエティ誌のインタビューで答えている。