May 30, 2024 column

期待に応える新機軸 『マッドマックス:フュリオサ』世紀末から横たわる現代への思索

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行って帰ってくる物語、ふたたび

前作『怒りのデス・ロード』は、トム・ハーディ演じる主人公のマックスとフュリオサたちがシタデルから「緑の地」を目指し、再びシタデルへ戻って来るという、(物語構造の基本ともいわれる)“行って帰ってくる物語”だった。じつは今回の『フュリオサ』も、この構造を踏襲しつつ、今回ならではのひねりを利かせている。

© Warner Bros. Entertainment Inc.

ただし、あくまでも本作はフュリオサの成長譚であり、映画の核はフュリオサそのものだ。したがって、前作とは映画のトーンこそ一見似ているが、物語の構造は大きく異なる。26年という年月を全5章に分けた叙事的なストーリーテリングで、フュリオサをアニャ・テイラー=ジョイが演じるのも第3章から(前半は子役のアリーラ・ブラウンが演じている)。『怒りのデス・ロード』はマックスやフュリオサの“移動”が映画全体を駆動するエンジンとなったが、本作はフュリオサのドラマに焦点を絞っている。

すなわち、これはフュリオサというキャラクターをじっくりと掘り下げる映画なのだ。したがって『怒りのデス・ロード』のように、プロットやアクション&スペクタクルの力で作品を引っ張ることはあえてしておらず、人物中心の物語に、そのつど必要なアクションシーンが挟み込まれるようなつくりとなっている。

もちろん、前作を思わせるハイテンション&エネルギッシュなアクションも健在だ。砂漠を走るタンクの機構をフルに使ったチェイス、どこを取っても決まりまくった構図、炸裂するイマジネーション、トム・ホルケンボルフ(前作ではジャンキーXL名義だった)による映画のビートを規定するかのような音楽。見たこともないような画にあぜんとする瞬間もあるだろう。『怒りのデス・ロード』ファンの期待を裏切ることは決してない。

今の時代の『マッドマックス』

注目しておきたいのは、ジョージ・ミラーが本作を『怒りのデス・ロード』や過去の『マッドマックス』とはある部分ではっきりと差別化していることだ。映像のルックには砂漠のシーンでも違いがあり、また「緑の地」を描く場面には、監督の前作『アラビアンナイト 三千年の願い』(2022)などを思わせるカラフルさもある。

しかし最大の違いは、『マッドマックス2』(1981)以来の基本設定である世界荒廃の設定に新たなレイヤーが加わったことだろう。本作では冒頭から「パンデミック」や「熱波(=気候変動)」が人間社会を壊滅させた一因であることが明言されており、シリーズで最もリアリティのある設定となっている。言うまでもなく、これは『怒りのデス・ロード』からの9年間で世界が経験した出来事の反映だ。

また、かくも激しいアクション&スペクタクルが見どころの映画であるにもかかわらず、本作は終盤で思わぬ急旋回を見せる。クライマックスで観客が見るのは、アニャ・テイラー=ジョイ演じるフュリオサと、クリス・ヘムズワース演じるディメンタスが一対一で繰り広げる、ギリシャ悲劇さながらの会話劇なのだ。アニャの力強い演技はもちろんのこと、悪役に振り切ったクリスの怪演にも目を見張る。

そして、そこで浮かび上がるのは、「なぜ人は人を憎むのか」「なぜ憎悪と復讐の連鎖は終わらないのか」という根源的な問いかけである。現代社会に最も近づいた世界観の設定もあいまって、観る者は、今まさに現実世界で進行している戦争や暴力の数々を想起することにもなるだろう。

『怒りのデス・ロード』当時に執筆された脚本から、すでにミラーがこのようなテーマを織り込んでいたのかどうかはわからない。しかし、これはまぎれもなく今の時代の『マッドマックス』だ。シリーズの連続性とは別に、また映画としての快感とも別に、ここにはきわめて切迫した現在への思索がある。

「世紀末の、遠く離れた砂漠で繰り広げられるおとぎ話では決してないのだ。」

文 / 稲垣貴俊

作品情報
映画『マッドマックス:フュリオサ』

世界崩壊から45年。バイカー軍団に連れ去られ、故郷や家族、人生のすべてを奪われた若きフュリオサ。改造バイクで絶叫するディメンタス将軍と、鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョーが覇権を争う”MADな世界(マッドワールド)”と対峙する! 怒りの戦士フュリオサよ、復讐のエンジンを鳴らせ!

監督:ジョージ・ミラー

出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース

配給:ワーナー・ブラザース映画

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2024年5月31日(金) 全国公開

公式サイト MADMAX-FURIOSA