マイケル・キートン版バットマン&スーパーガール
映画の序盤、『ジャスティス・リーグ』から続投したバットマン/ブルース・ウェイン役のベン・アフレック、ワンダーウーマン役のガル・ガドット、執事アルフレッド役のジェレミー・アイアンズが登場したのに続いて、本作は中盤以降にDC映画らしさを強めていく。
『マン・オブ・スティール』(2013)以来の登場となるゾッド将軍(マイケル・シャノン)がスーパーマンを探して地球侵略を開始する中、18歳のバリーが生きている世界には、バリーが未来を変えたためにジャスティス・リーグが存在しないことが判明。その過程では、『アクアマン』(2018)からトーマス・カリー役のテムエラ・モリソンが思わぬ形で再登場し、『ジャスティス・リーグ』に登場したサイボーグ/ビクター・ストーンの名前にも言及される。
もっとも、この世界にもバットマンの存在はあった。2人のバリーはブルース・ウェインの邸宅を訪れるが、そこにいたのは『ジャスティス・リーグ』のベン・アフレックではなく別人。演じているのは、ティム・バートン版『バットマン』シリーズのマイケル・キートンだ。さらに、本作でDCユニバースの実写映画に初参戦となるスーパーガール(サッシャ・カジェ)も加わって、物語は2人のバリーによるバディ・コメディから、スーパーヒーロー映画らしいチームアップ・アクションへと転調する。とりわけ2人のフラッシュとバットマンのタッグはアイデアに富み、ユーモアも効いていて楽しい。
約30年ぶりにバットマン役を再演したキートンは、初めてブルースを演じた『バットマン』(1989)を思わせるウェイン邸や、巨大なセットが建てられたバットケイブに立ち(キートン自身、初めてセットに足を踏み入れた際は言葉を失ったという)、同じく89年版のデザインをアップデートしたバットウィングに乗り込む。身につけているバットスーツは当時そっくりのシルエットだが、それだけでなく新たなテクノロジーも搭載された。
本作は基本的に『ジャスティス・リーグ』『マン・オブ・スティール』を手がけたザック・スナイダーらしいスタイルのアクション演出を踏襲しているが、キートン演じるバットマンには、スーツのデザインもあいまってバートン版に通じる独特の身体性がある。また音楽のベンジャミン・ウォルフィッシュは、名匠ダニー・エルフマンによるティム・バートン版『バットマン』のテーマを随所に引用。懐かしくもどこか新しいルックとともに、“キートン・バッツ”の新たな活躍を盛り上げた。
なおムスキエティ監督は、冒頭でベン・アフレック演じるバットマンがバットサイクルでカーチェイスを繰り広げるシーンでは、『ダークナイト』3部作のクリストファー・ノーラン風味のドライな都市型アクションにも挑戦(同シリーズではバットマン役をクリスチャン・ベールが演じた)。あらゆる作品とジャンルを融合させ、そのつどアクションのトーンを変化させるバラエティ豊かな演出も、マルチバース映画である本作の強みだろう。
もっともバットマンとスーパーガールは、本作においてはあくまでもサブキャラクターだ。この2人やゾッド将軍が中心となる第3幕は、フラッシュの物語から軸が少々ブレる印象もあるが、最後にはきちんとフラッシュ/バリー・アレンの物語に回帰する。クライマックスは2人のバリーが計画のエラーを修正するためにタイムトラベルを繰り返す展開となり、まさに「時間映画」としての本領発揮。CGを駆使した時間移動の表現、マルチバースの衝突を映像化したイマジネーションは圧巻だ。