Mar 15, 2024 column

『デューン 砂の惑星PART2』 ドゥ・オア・ダイ、不穏な救世主のつくり方

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ドゥ・オア・ダイ

『デューン 砂の惑星PART2』の最大のスペクタクルは、サンドワーム=砂虫に乗って砂漠を水上スキーのように駆け抜ける「儀式」のシーンだ。砂漠の激流のような変化、うごめく声、地面の揺れ、死と隣り合わせにあるかのような危険極まりないスリルと興奮に全身が包まれる。まさに体感型の劇場体験であり、ポールと共に“ドゥ・オア・ダイ”のスピリットを体現するかのような壮大な描写だ。サンドワームを呼ぶ「タンパー」という一定のリズムで調律されたマシンの機械音、心臓の音が拡大されたようなビートが、前作に続き最高の音響的な効果をあげている。砂の感触を感じることができるのはこのシリーズの最大の強みだ。この映画を体験するオーディエンスは“砂の声”、“砂の叫び”を浴びる。

妊娠中のレディ・ジェシカと胎内の娘アリアの関係性は、かつてドゥニ・ヴィルヌーヴが『メッセージ』(2016)を撮ったことを想起させる。まだ身ごもってすらいない娘の死を予知する『メッセージ』では、運命と妊娠がテーマとなっていた。そして“過去のように感じる未来”という趣向は両作品に共通している。ベネ・ゲセリットの女性たちは、何世紀にも渡る過去の痛みと未来の予言を同時に纏いながら生きている。

ポールの無邪気さは失われていく。救世主としての運命を受け入れていくポール。政治的な謀略の力学によって“救世主”がつくられていく。恋人たちが望んでいなかった未来が待っている。『デューン 砂の惑星PART2』は、この世界にカリスマ的な指導者が誕生する力学の悲劇を描き、警鐘をならす。そこでは制御できないような未来が始まろうとしている。本作は砂漠の地底にうごめく“音”、新たな世界が動きだすときの“叫び”を聞く映画だ。それは世界を正しい方向に導く音なのか、迫りくる恐怖を予見する不吉な音なのか、あるいは世界を悲しむ嘆きの叫びなのか。すべてをポールのすぐ側で見つめていたチャニの鼓動は、いつまでも砂漠の上でビートを刻み続けている。

文 / 宮代大嗣

作品情報
映画『デューン 砂の惑星PART2』

惑星デューンをめぐる宇宙戦争が勃発。ハルコンネン家の陰謀により、アトレイデス家は全滅。しかし、最愛の父とすべてを失うも、王子ポールは生きていた。ついに復讐の時。運命の女性・砂漠の民チャニとポールの、全宇宙を巻き込む最終決戦が始まる。

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演:ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、デイヴ・バウティスタ、クリストファー・ウォーケン、レア・セドゥ、ステラン・スカルスガルド、シャーロット・ランプリング、ハビエル・バルデム

配給:ワーナー・ブラザース映画

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2024年3月15日(金) 公開

公式サイト  dune-movie