色彩を失った惑星
ノスフェラトゥのルックのようなハルコンネン家。『地獄の黙示録』(1979)でマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐のようなルックのハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)。ハルコンネンの惑星ジエディ・プライムのシーンが素晴らしい。『デューン 砂の惑星PART2』の豪華キャストの中でも、とりわけ出色の輝きを放つフェイド=ラウサ・ハルコンネン(オースティン・バトラー)。フェイド=ラウサが登場するスタジアムのシーンは、色彩を失った灰色の世界だ。色彩が殺された世界。ドゥニ・ヴィルヌーヴによるとハルコンネン家の残忍さを二次元的に表わすために、このシーンは赤外線を利用して撮られたという。
色彩を殺す惑星としてのジエディ・プライム。蛇のようなセクシーさとカリスマ性を持つフェイド=ラウサが次々と決闘に勝利していく。オースティン・バトラーはデヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星』(1984)でスティングが演じたフェイド=ラウサのイメージを見事にアップデートしている。この役はアレハンドロ・ホドロフスキー監督の実現しなかった『デューン』では、ミック・ジャガーが演じる予定だったという。スタジアムでの撮影にはロックのライブのような雰囲気がある。ドゥニ・ヴィルヌーヴによる『デューン』の映画化の歴史に対するトリビュートのように思えてくる。狂騒的だが表情のないスタジアムの観客たち。このシーンには得体の知れない野蛮さがある。
秘密諜報員のようなレディ・マーゴット(レア・セドゥ)が、フェイド=ラウサの死闘をVIP席のようなところからオペラグラスで観戦している。レディ・マーゴットの登場するすべてのショットにキレがある。レディ・マーゴット=レア・セドゥは多彩なニュアンスを含んだ人を誘いこむような“まなざし”をフェイド=ラウサに、そしてスクリーンに投げかけている。本作に初登場する女性の俳優たちは、いずれも圧倒的な輝きを放っている。
皇帝(クリストファー・ウォーケン)の娘皇女イルーラン役を務めたフローレンス・ピューの堂々とした知性的な雰囲気は、弱まりつつある皇帝の姿とは対照的だ。皇女イルーランにはゲームの推移を楽しんでいるような優雅さがある。また煌びやかな鎖帷子を纏う皇女イルーランのイメージは、ドゥニ・ヴィルヌーヴが企画しているという『クレオパトラ』のイメージを先取りしているのかもしれない。そして前作に続き登場するベネ・ゲセリットの教母ガイウス・ヘレン・モヒアム(シャーロット・ランプリング)は、この物語のすべてを裏で操るもっとも不吉な人物のように見える。