Sep 02, 2022 column

『ブレット・トレイン』原作愛と創造的破壊の奇跡的融合、あるいはタランティーノへの回帰

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アクションで物語を語る

かつてリーチ監督は、スタントマンとして『ファイト・クラブ』(1999年)や『Mr. & Mrs. スミス』(2005年)などでブラッド・ピットの代役を務めており、当時からの縁が『ブレット・トレイン』の実現に繋がった。長年にわたるスタントマン経験ののち、スタント・コーディネーターなどを担ってきたリーチのキャリアは、別の形でも作品に活かされている。

『ブレット・トレイン』で特に顕著なのは、「アクションによってストーリーを語る」という技術の洗練だ。これはリーチがセカンド・ユニット・ディレクターを務めた『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)のアンソニー&ジョー・ルッソ監督が当時こだわっていたことだが、まさにその流儀が本作にも徹底されている。

それはすなわち、ひとつひとつのアクションシーンにどんな状況を設定し、アクションが人物の心理をいかに表現し、その中で人間関係がいかに変わり、いかに決着するのかということだ。あるいは、そのアクションが観客を怖がらせるのか、笑わせるのか、その心理にどんな影響を与えるのかということでもある。

本作はほとんどが「ゆかり号」の車内のみで展開するが、各車両にさまざまな設定を用意し、人物の組み合わせや演技、アクションの緩急で物語を展開していくスリリングさは、脚本由来のサスペンスともあいまって絶妙だ。プロットとアクションの両輪でストーリーを語り続ける強度たるや、いまやルッソ兄弟さえ凌ぐほど。ドミニク・ルイスによる劇伴音楽や、多種多様な楽曲との相性も優れている。

ちなみに本稿の前半では「原作に忠実」と書いたが、この映画が本当に原作に忠実なのは「ゆかり号」が京都駅に到着するまで。そこからは映画独自の展開で、ブロックバスター映画としての威力が炸裂するクライマックスが待っている。映画史にさまざま存在する“列車アクション映画”の系譜としても、まさしく王道の展開だろう。

伊坂幸太郎の原作小説『マリアビートル』に敬意を払いながら、ハリウッド流の大作アクション・サスペンスとして映画化し、“映画”ならではの方法で原作の向こう側を見せる。原作にない部分にも思わぬところに伊坂作品らしさがあり、監督・脚本家らの原作愛を感じることができるはずだ。

決して重厚な映画ではないが、本作は細部まで丁寧に作り込まれた、しかしあるところでは「細かいことはいいんだよ!」と言わんばかりに勢いで押し切りもするダイナミックな一本。コロナ禍のため、撮影のほとんどがスタジオ内のセットで行われたが、そのことを感じさせないエネルギッシュさも大きな魅力だ。ぜひ新幹線に乗るような気分で、あるいは自分の知らない日本に冒険するつもりで、映画館の大スクリーンにて堪能してほしい。

文 / 稲垣貴俊

作品情報
映画『ブレット・トレイン』

世界で最も運の悪い殺し屋レディバグ。ブリーフケースを奪うよう謎の女性から電話越しに指令を受けたレディバグは、気合たっぷりに東京発・京都行の超高速列車に乗り込む。だがしかし、それは彼にとって人生最悪な120分間の始まりだった。弾丸列車と化した時速350キロメートルの車内で繰り広げられる、決死のバトル。予期せぬ最悪が折り重なり、終着点・京都に向けて絶望が加速する。

監督:デヴィッド・リーチ

原作:伊坂幸太郎「マリアビートル」(角川文庫刊)

出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン、バッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)、サンドラ・ブロック

吹替版声優:堀内賢雄、山本舞香、津田健次郎、関智一、木村昴、井上和彦、阪口周平、立川三貴、フワちゃん、米倉涼子

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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公開中

公式サイト bullettrain-movie.jp