名作シリーズに名プロデューサーあり
さて、そんな本作の見どころを少し深掘りしていこう。往年のファンなら、オープニング・タイトルから泣ける。Netflixのカラフルなタイトルの次に出てくるのは、「ドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマー フィルムズ」。80年代といえば、この2人のプロデューサーコンビだった。
ドン・シンプソンは『愛と青春の旅だち』(1982)、『48時間』(1982)、ブラッカイマーは『さらば愛しき女よ』(1975)、『キャット・ピープル』(1982)に関わり、『アメリカン・ジゴロ』(1980)で一緒に仕事をしたことで意気投合した。そして、ジェニファー・ビールス主演のダンス&音楽映画『フラッシュダンス』(1983、エイドリアン・ライン監督)を生み出す。『ビバリーヒルズ・コップ』を経て、トム・クルーズ主演の『トップガン』(1986、トニー・スコット監督)を大ヒットさせた。
このコンビ作の特徴は、ド派手なアクション、小気味いい演出、そこにテンポのよいロック、ポップが乗る。見せて聴かせる五感を刺激するエンタメ。スター監督、音楽スターも多数生み出した。
僕は95年、カンヌ国際映画祭で『バッドボーイズ』のプロモーションで訪れた2人を取材したこともある。若かったこともあり、「ホンモノだ!」とミーハー心で喜んだ。ドン・シンプソンがその翌年1月にドラッグの過剰摂取による心臓麻痺で亡くなった時は心底、驚いた。
ブラッカイマーはシンプソンのドラッグ乱用に愛想をつかしたそうで、一時はコンビを組まない時期もあったが、コンビ作の最後となったショーン・コネリー主演のアクション『ザ・ロック』(1996)では「この映画をドン・シンプソンに捧ぐ」との献辞した。『バッドボーイズ RIDE OR DIE』(公開中)も「ドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマー フィルムズ」とクレジットされていた。ブラッカイマーはきちんと権利を守り、義理堅い人なのだろう。
このシリーズは『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987)まではよかったが、シンプソンとブラッカイマーのコンビが手を引いた『ビバリーヒルズ・コップ3』(1994)はひどかった。興行的に大失敗。さらには、作品、監督がゴールデンラズベリー賞にノミネートされる酷評ぶりだった。マーフィ自身も出来栄えには大いに不満を持っていたそうで、90年代後半には“このままでは終われない”とばかりに自身の製作会社による第4作の製作を発表する。
しかし、製作は難航し、紆余曲折と長い時間がかかった。マーフィーの計画は頓挫し、2006年にブラッカイマーが製作を引き継いだが、これも断念。2008年には『ラッシュアワー』のブレット・ラトナーが監督するというメディアリリースもあった。2013年にはブラッカイマーが再び製作に乗り出すも、なかなか進まず。2019年になって、パラマウント・ピクチャーズがNetflixとライセンス契約を結んだ。これも、コロナによるパンデミックのため、製作が中断。22年になって、ようやく撮影に入ることができた。
監督はオーストラリア出身で、CM、テレビ、映画で活躍する新鋭マーク・モロイ。本作が長編映画デビュー作となる。モロイ監督は失敗作の第3作を見ておらず、1、2作を参考に新たなドラマを構築したそうだ。脚本は『アクアマン』(2018)、『バッドボーイズ RIDE OR DIE』のウィル・ビールが担当している。