Jun 26, 2022 column

『ベイビー・ブローカー』は「生きる」ことの全的な肯定に向かう旅

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いまとこれからの世界に必要な共生や融和

実際、本作の座組みはスーパーバンドのような鉄壁の凄まじさだ。『空気人形』(2009年)で主演してから是枝監督との念願の再タッグとなるペ・ドゥナ、韓国の国民的俳優カン・ドンウォン、今回新境地に挑む韓国トップの歌姫IUことイ・ジウンや、ドラマシリーズ『梨泰院クラス』(2020年)で新世代スターの仲間入りを果たしたイ・ジュヨンら、韓国を代表する精鋭たちを集めたオールスターキャスト。撮影には『パラサイト 半地下の家族』の他、『バーニング 劇場版』(2018年/監督:イ・チャンドン)や『流浪の月』(2022年/監督:李相日)などのホン・ギョンピョ。音楽に『パラサイト 半地下の家族』やNetflixドラマシリーズ『イカゲーム』のチョン・ジェイルと、いま最もオファーが殺到する超一流スタッフたちがそろった。

カトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークといった世界的なビッグスターを迎え、フランスで撮った前作『真実』(2019年)に続く、国際的な名匠となった是枝監督ならではの企画であり、話題性は充分。ただし作品の内実自体は、わかりやすい派手さとは一切無縁。慎ましいほどのタッチで進む誠実さに満ちた良作だ。

国や言語の壁を超え、いまとこれからの世界に必要な共生や融和の在り様を柔らかく提示した『ベイビー・ブローカー』。また本作は、第75回カンヌ国際映画祭において最優秀男優賞に加えて、同映画際の独立賞「エキュメニカル審査員賞」(キリスト教関連の団体から「人間の内面を豊かに描いた作品」に与えられる)も獲得した。これまで青山真治監督『EUREKA』(2000年)、河瀨直美監督『光』(2017年)、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』(2021年)などが栄誉に輝いてきた賞である。

本作に込められた想いと作品が差し出すメッセージは、シンプルかつ力強いものだ。ここではエキュメニカル審査員賞受賞に当たっての是枝監督のコメントから、その一部を以下に引用させていただきたい。

「映画の最後間近で、彼ら全員が生まれてきたことを祝福されます」「普段はやらないくらいはっきりとセリフにしました。その祝福の言葉を聞いた後にちょっとだけ人生が上向きになる、上を向いて生きていけるようになるというか、そんな物語にしたいなと思いました」――。

そう、この困難な時代に『ベイビー・ブローカー』がもたらす一筋の光は、我々が「生きる」ことの全的な肯定なのである。

文 / 森直人

作品情報
映画『ベイビー・ブローカー』

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストがある施設で働く児童養護施設出身のドンス。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨンが、赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジンと後輩のイ刑事は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが‥‥。

監督・脚本・編集:是枝裕和

出演:ソン・ガンホ 、カン・ドンウォン 、ペ・ドゥナ、イ・ジウン イ・ジュヨン

配給:ギャガ

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