『ムーラン・ルージュ!』の特等席は?
時代設定は1899年の世紀末。15年後に始まる第一次世界対戦を控えた欧州は、産業革命の恩恵を蒙る人々であふれ返っていた。「ムーラン・ルージュ」とは仏語で「赤い風車」という意味だが、舞台となるパリ、モンマルトルで正面に赤い風車を掲げたキャバレー、ムーラン・ルージュも、少し廃頽的ではあるがベル・エポックに湧いていたのだった。スターの踊り子を愛人にしようと策する公爵、ムーラン・ルージュのオーナーでもある彼女の雇い主、その踊り子への思いを心に秘めたまま生きるアーティスト、そして若い作家で一目彼女を見て恋に落ちる夢想家のアメリカ人と男性4人のそれぞれの思いが、一人の娘を中心に絡み合って、ストーリーは展開する。ちなみに、この彼女への思いを打ち明けられないアーティストの苗字はロートレックで、映画『赤い風車』で描かれた画家トゥールーズ・ロートレックが元になっている。
このミュージカル『ムーラン・ルージュ!』は去年、ボストンでの劇場公演で大成功を収め、ほぼ一年弱でブロードウェイにやってきた。6月28日からレビューが始まっているが、映画に劣らず豪華な作品に変身したと評判になっており、収益は5週目にして、すでに約39億円弱に達したと発表された。満席が続き、チケットは平均で一席$237。これは傑作『ハミルトン』に次ぐ2番目の高値となる。ちなみに今年トニー賞に輝いた『ハデスタウン』でも$176。今シーズン大ヒットした『エイント・トゥー・プラウド』は$138。『ムーラン・ルージュ!』の人気の程がおわかり頂ける。尚、あらすじと劇評は、同作品が正式オープンする7月25日以降に掲載を予定している。
その高額なチケットのなかには面白い趣向として、舞台上にセットにされたムーラン・ルージュの観客テーブル席もある。つまり俳優やダンサー達を間近に観られて、その上自分もエキストラとして密かに出演してしまう席となる。こちらは$349から用意されている。滅多にできない体験を味わえる。ただし絶対に眠らない覚悟が要るので、時差ボケが残っているなら避けたい席ではある。
上演は普通のブロードウェイ作品とは違い、8月からマチネは木曜日と土曜日にあるので、上手く組み合わせれば、他のブロードウェイ作品とのハシゴ鑑賞ができる。短期間にたくさん観たい人にとっては都合がいいかもしれない。
文/井村まどか
アイキャッチ画像/Boston performance @by Matthew Murphy, 2018