Jan 31, 2025 column

『リアル・ペイン~心の旅~』"変人"とは誰か? キーラン・カルキンの演技に見る当事者意識の欠如

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趣味は”変人”観察

本作で、キーランは第82回ゴールデングローブ賞映画部門 助演男優賞を受賞した。授賞式のスピーチの一部を抜粋する。

最初に俳優として認められたのが、子どものころにゴールデングローブ賞にノミネートされたことがきっかけでした。ここはとても特別な場所です。

https://www.searchlightpictures.jp/news/20250106_01

これは主演を務めた『17歳の処方箋』で2003年に授賞式が開催された第60回ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされたことを指す。この作品で、キーランは裕福な家庭に育ちながら、偽善的な周囲の人々や社会に対して怒りをぶつける少年を演じた。

キーランの俳優としてのストーリーを追うと、本作のベンジーに重なるものがある。

アイゼンバーグは、オンライン会見で、キーランを起用した理由について次のように明かした。

「ベンジーがツアーのメンバーの心をつかむシーンを脚本で書き、その夜、妹に読んでもらったところ『地球上でこの役を演じられるのはキーラン・カルキンしかいない!』と提案してくれたんです。それまでキーランとは何度か会ったことがある程度でしたが、たしかに明るく愛すべきキャラなのに、痛みや悲しみが表情に出てしまう人という印象だったのを思い出し、役をオファーすることにしました」

ベンジーは、難しいキャラクターだ。
個人的にベンジーのような友人が何名かいる。いわば、痛みを抱えながら、自分と折り合いをつけ、人知れずもがきながら懸命に生きいている彼らのような人が身近にいるかいないかで、ベンジーというキャラクターの理解度は変わってくるように思う。みんなに愛され、誰とでも仲良く接し、場を明るくする一方で、突如機嫌が変わり、突拍子もない行動に出る。

「どうしようもないやつだ」「言っていることやっていることの違いが理解できない」と周りの友人たちは、彼らの言動や行動に苛立ち、悪態をつくことはあるけれど、彼らを大事な仲間だと思って接している。

作中でも「大好きだけど理解できないのが辛い」とデヴィッドが涙を流す。社交的なベンジーへの憧れをコンプレックスとして抱えながら、彼の愛情深さと葛藤が入り混じるシーンだ。

家族愛を大きな意味で捉えていくと、先祖に至る。それで終わるのではなく自分に関わる全てに対しての愛と痛みについて考えさせられるのが、本作『リアル・ペイン』だ。

“変人観察が趣味”というベンジーが、ラストシーンで陽気な顔の後に物悲しい無表情をみせる。これは冒頭と同じカットである。このシーンを観た観客は、最初と最後で、印象と感じ方が変わっていることに気づくと思う。

ベンジーがいう”変人”とは誰か、観客それぞれが異なる感想を持つだろう深い余韻を残すラスト。目を背けずに最後までスクリーンと向き合ってほしい。

文 / 小倉靖史

作品情報
映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』

ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとベンジーは、亡くなった最愛の祖母の遺言で、ポーランドのアウシュビッツまでのツアー旅行に参加する。従兄弟同士でありながら正反対の性格な2人は、時に騒動を起こしながらも、ツアーに参加したユニークな人々との交流、そして祖母に縁あるポーランドの地を巡る中で、40代を迎えた彼ら自身の“生きるシンドさ”に向き合う力を得ていく。

監督:ジェシー・アイゼンバーグ

出演:ジェシー・アイゼンバーグ、キーラン・カルキン、ウィル・シャープ、ジェニファー・グレイ

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 

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