Dec 31, 2016 column

映画『君の名は。』について、40代の僕が10代の観客に感じた嫉妬。

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2016年の映画を振りかえったとき、今年ほど書くことが多く、同時に書きづらい年もないような気がする。というのも多くの記事が伝えているように今年は誰の目にも明らかなほどアニメ映画が話題を集めたし、そして多くの論調同様、どうしても同じような話になってしまうからだ。それほど2016年に起こったことはわかりやすかった。

誰の目にも明らかな最大の事件は、8月に公開された新海誠監督の『君の名は。』の空前の大ヒット。全国301スクリーンというそれまでの新海作品の規模を考えればかなり冒険をしたと思えるスタートだったが、蓋を開ければ誰もの予想(それは制作側も興行側もファンすらも)を超える客が押し寄せ、社会現象とまで言われた。

興行収入は12月時点で200億円を超えて国内邦画歴代2位。日本においてジブリ作品以外の原作なしのオリジナルアニメ映画がこのようなことになったのは初めてだ。しかもなお客足は途切れることが無く、リピーターも多いこの作品では何度と足を運ぶ観客に向けて、12月にパンフレット第2弾の販売を開始。半年以上のロングランとなった映画は過去にもあるが、パンフレット第2弾なるものを出した作品ははじめではないだろうか。年明けにはIMAXフォーマットになったバージョンの上映まで一部の劇場で行われる。

熱狂の中心にいたのは中高生たちだった。一方で、青年期も終わったおよそ30歳以上あたりの人たちからは「面白かったけど…」と何か歯切れの悪い反応もちらほら見受けられた。こういう差が生じたときの常ですぐさま世代間問題に話を落とし込んだり、「若者にわかりやすい内容にしたから受けたが大人には辛い」というヘンな上から目線で自分を納得させている評も目にしたが、でもそういうことだったんだろうか? という疑問を数ヶ月ずっと思っている。

本当にわかりやすい作品だろうか? TVドラマは20年ほど前から“ながら見”をしてもついていけるように、セリフによる説明を多くするスタイルを取り入れるようになった。これは視聴者の生活スタイルの変化に対応したことが始まりで、それなりに必要性があってのことだった。しかしその影響で、(特に若い観客をターゲットにした)映画でも同様にセリフによる説明が過多の作品が増えるといった弊害も生んだ。『君の名は。』も一見そういった“わかりやすい作り”かのように見えるのだが、実際は本当に重要なことはあえてセリフで語らせないなど映像で語っている要素もかなり多く、僕はまぎれもない映画作品だと感じた。

公開後に「一瞬も画面から目が離せなかった」という多くの感想を目にしたが、目が離せないのは、映画文脈による伝え方によるところが大きい。セリフやナレーションによる説明に頼らず、『君の名は。』の映像そのものが伝える物語やドラマに、“ながら見”作品で育ってきたはずの若い人たちの気持ちを揺さぶる、“自分たちだけのリアリティ”をこの映画に感知した人たちが多かったからなのではないだろうか。彼ら・彼女らの年齢だからこそ感じられる部分。その部分に青年期を過ぎてしまった多くの大人たちには読み取れないドラマやリアリティが山のようにあったのではないのか。一部の大人たちが感じた歯切れの悪い印象の正体は、「面白く感じられなかった」のではなく「ソレがわからなかった」なのではないか?

「んじゃ、ソレって何なんだ?」と聞かれると困る。なぜなら僕もソレがわからないオッサンの側だからだ。しかし僕は娯楽性の高さに満足し、何度か劇場に足を運んだ。作品の仕掛けもあり、二度目以降は「あ、ここでアレについて振っていたのか」など発見もあって楽しめた。だがその一方で、劇場に行くたびに多くの中高生を目にしては、「この映画を見て自分が感動した点とこの若者たちが感動した点はたぶん違っていて、そして彼らがしている感動を僕はもう感じることは出来ない」という、いかんともしがたいオッサン的現実を感じ、そして久々に若い子たちに嫉妬心すら感じてしまった。映画を見てそこまで若い観客に嫉妬を感じたのは細田守監督の『時をかける少女』以来だ。あの作品を見たときも「この映画を今、高校生の年齢で見ることが出来る人たち」に嫉妬を感じたのを覚えている。若者に嫉妬するってこと自体がオッサンである証左ではあるのだけど。

映像業に席を置いている身としては、おそらく2017年には『君の名は。』の大ヒットを受けて企画されたと思えるTVドラマや映画がちらほら出てくるのではないかと想像しているのだが、その時にそういった要素をどう考え、どう取り入れていくのか。 “感じることのできなくなってしまった大人”の制作者たちの、まさに力が問われる時なのだと考えている。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

監督自身によるノベライズ

「小説 君の名は。」(新海誠 著/角川文庫)

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