2022年は1400作品を超える映画が公開されました。行動制限も緩やかになり、映画館に足を運んだ方も増えたことでしょう。多くの作品が公開された一方で、「話題作が多すぎてどれを観ればいいか迷ってしまった」「気になっていた作品はあったけれど期間内に劇場に行けなかった」という方々も少なくないと思います。
otocotoでは、動画配信サービスで観られる今年のおすすめ作品を5回に分けてご紹介。第1回のテーマは「音楽」。たくさんの観客に囲まれたライブステージが難しくなった昨今、映画でその素晴らしさを再確認してください。
01. 音楽評論家が選んだ2022年おすすめ映画
『エルヴィス』: 革新的で革命的 田舎者が世界的スターになるまで
「キング・オブ・ロックンロール」の名にふさわしいエルヴィス・プレスリー(1935-1977)の伝記映画も、実に見応えがある作品だ。このような多くの実績を残したエンタテイナー、アーティストを題材にする場合、どこに焦点を当てるか、どんな切り口にするか、非常に難しいところだが、この映画では主人公エルヴィスとその生涯のマネージャーであるパーカー大佐(1909-1997)との関係にスポットをあて、そこを軸に物語が展開していった。
この2人の出会いからマネージャーになり、敏腕として無名のうぶな田舎者だった若者を売り出し、スターにし、しかも世界的なスーパースターに育てた大佐の手腕は評価されるべきだ。だが、その過程において、そのどぎつさ、ずるがしこさはなかなかのものだ。そして、本作ではそれをしっかりと描く。
もちろん、アメリカ南部メンフィスを舞台に活躍を始めたエルヴィスは、ハンサムで歌がうまく、また体の動かし方もセクシーで当時の若者から圧倒的支持を得た。
当時シンガーは、ステージ上でほとんど動かず、じっくり歌を歌うことが一般的だったので、それが激しく動き、しかも腰の動きが性的なものを想像させるのだから、革新的・革命的だった。その動きがセクシーすぎるとテレビでは、腰より下は映してもらえなかった。今ではとても想像できないのだが、そうした当時の状況を、本作は巧みに描いている。
そして、もうひとつ、1950年代から1960年代にかけてのアメリカ音楽業界での「契約の概念」というものを、この映画では如実に表している。すべてがこうだとは言わないが、おそらく、こんな感じなのだろう。
無名の若者のエルヴィスは、最初に自分のことを認めてくれたパーカー大佐に、ことのほか恩義を感じ、彼のことを信頼する。そして、彼の指示に従ってさまざまなことを行動していくと、どんどんと成功していく。お金のことも任せる。すると、それに慣れてきたマネージャー、パーカー大佐は次第にその金を自分のもののように思ってきて、それを自由勝手に使い始める。
それがついに発覚し、エルヴィスとパーカーは、一度は袂を分かつが、さまざまな状況で2人は寄りを戻し、最後まで突き進む。
エルヴィスとパーカー大佐は、いわゆる書面での契約書を交わしていないと言われる。つまりすべて「口約束」だ。現代ではとても信じられない形式だ。それだけ、恩義、口約束というものを信じていた時代であり、地域でもあったのだろう。
そして、もちろん、エルヴィスがメンフィスをベースとする様々なミュージシャンとの交流を持つところが描かれる。キング・オブ・ブルーズことBBキング(1925-2015)とエルヴィスがお互い「BB」「EP」などと呼び合っていたことなど、なかなかほほえましい。そして、人種差別の激しい1950年代60年代、しかもアメリカ南部でも、この音楽の魅力は、ブラックもホワイトも関係ないということを映し出している点が美しい。
監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング、コディ・スミット=マクフィー
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト elvis-movie.jp
配信サイト Amazon Prime Video/U-NEXT