黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』。日常の中にある違和感や恐怖を描くことを得意とする監督が今作で挑んだのは、人気劇団「イキウメ」の代表作である『散歩する侵略者』の映像化。どこにでもいる夫婦、うだつの上がらないジャーナリスト、その2組を軸に、突如現れた侵略者により巻き起される混乱を、人間ドラマに焦点を当てて描いて行く。今作で侵略者である天野、立花あきらを演じた高杉真宙さん、恒松祐里さんに、黒沢組で得た経験や侵略者という難しい役柄をどう演じたかなど語り合っていただきました。
──高杉さんと恒松さんは今回が初共演ですよね。初めて現場で会ったときのことを覚えていますか?
高杉 はい。恒松さんがアクションシーンを撮影している現場でした。割と遠くの方からご挨拶したのですが、そのときに受けた印象はストンとした佇まいの、マンガに出てくる女性騎士みたいな方だな、と。
恒松 そういうシーンの最中だったからですかね、でもそんな風に言ってもらえてうれしいです。
高杉 僕自身、現場にいる間中ずっと緊張していて。対照的に恒松さんはいつも元気で明るく天真爛漫な佇まいが素敵で、そんな風にいられる余裕のなかった自分的には眩しかったし、羨ましくも感じました。もちろん、外から見えない部分では緊張されていたりもしたんでしょうけど。
恒松 少しはありましたね。でも、高杉さんが本当に緊張されているのがとってもよくわかったんですよ。
──端から見てもわかるくらいだったんですか?
恒松 はい(笑)。
高杉 そうだったんですよ(笑)。恒松さんは初対面の印象はキリッとした騎士だったんですけど、実際にご一緒してみると良い意味で年相応の普通の女の子なんだな、と。
──恒松さんは、高杉さんと初めて会ったときと、お芝居をしていく中で印象が変わった部分はありました?
恒松 私は天野役を演じるのが高杉さんだと知ったときに、じつはちょっと天野っぽいな、と思っていて。実際にお会いしてみたら想像していたよりもさらに“天野感”があるなあって。(黒沢清)監督もおっしゃっていたのですが、実際にいそうなんだけど、なかなかいなさそうな独特の存在感があって。ちょっと宇宙人っぽいというか……あっこれは失礼ですか?
高杉 大丈夫です(笑)。
恒松 まとっているオーラが天野っぽい方だなって。いちばん最初にアクションシーンの撮影へ挨拶に来てくださったときも、まさに散歩するかのようにフラーッと現れて、サーッと帰って行かれる様子を見て、内心では“侵略者来たー!”って思っていました(笑)。
高杉 撮影の邪魔をしないようにと思って遠目から挨拶してすぐに退散したのですが、そんな風に映っていたとは。
高杉さんの心の壁はかなり高かったです(笑)。(恒松)
──天野と立花あきらは一緒に行動しているシーンが多かったですが、撮影中には積極的にコミュニケーションを取られていた方ですか?
恒松 私は全く物怖じしないタイプなのですが、高杉さんが人見知りだとおっしゃるので、どうにか心を開いてもらおうと空き時間などがあれば積極的に話しかけていたんです。質問だったら返しやすいかなと思って「猫派ですか? 犬派ですか?」とか、「今までで1番怖かった監督は誰ですか?」とか(笑)。でも、見事にかわされてしまいましたし、最後まで心を開いていただけなくて。私はけっこう心の壁を砕くのが上手な方だと思っていたのですが、なかなか手強かったです。
高杉 人見知りの上、ずっと緊張していたからというのが大きいですね。最後まで緊張が解けることがない現場でした。でも撮影が始まっちゃうと天野とあきらとしてそこにいた、というか。僕の場合はあまり役との境目がなかったような気がします。恒松さんは?
恒松 撮影が始まると完全にあきらになっちゃうけど、待ち時間などは意識して気分を切り替えて普通に人と話していました。あきらは人間ではないから、役に入り込みすぎちゃうのも大変かなと思って、カメラが回っているとき以外はなるべく普通の女の子でいよう、と。