今度のDC映画は、従来とはひと味もふた味も違う。海外で試写が始まるや「スーパーヒーロー映画の最高傑作」と評されたほか、今後のDCユニバースを統括する映画監督ジェームズ・ガンが絶賛。『ミッション:インポッシブル』シリーズや『トップガン マーヴェリック』(2022)でおなじみ、あのトム・クルーズもその出来栄えを称えたという。
その映画『ザ・フラッシュ』は、“地上最速のヒーロー”であるフラッシュ/バリー・アレンの単独作。DCユニバースには『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)で初登場し、『ジャスティス・リーグ』(2017)で活躍したフラッシュが、ついに自らの冒険に打って出るのだ。
しかし時を遡れば、本作は2014年の時点で計画が発表されていたもの。それからしばらくの間、数々の監督と脚本家がプロジェクトに参入しては去っていったのだ(『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の製作フィル・ロード&クリス・ミラーも、2015年には本作の脚本を書いていた)。本稿では、約10年を経て完成した悲願の一作、その魅力と創作の秘密を、製作の紆余曲折を含めて読み解いてみたい。
DCユニバースを「リセット」できるか
「そもそも」というべきか、あるいは「結果的に」というべきか、『ザ・フラッシュ』という映画は極めて特殊な立ち位置を求められることになった。企画が発表された2014年当時、DCユニバースは現在とはまったく異なるビジョンのもとで動いていたのである。また、現在のバージョンで企画が動き出した2019年の時点で判明していたのは、これがフラッシュにとって久々の本格登場になることだった。
しかも撮影終了後の2022年には、親会社のワーナー・ブラザース・ディスカバリーがDCユニバースの再編を決定。マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを手がけ、DCでは『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021)を監督したジェームズ・ガンらが率いる「DCスタジオ」のもと、ユニバースの一新計画が動き出した。この時、『ザ・フラッシュ』にはユニバースの「リセット」という重大なミッションが与えられたのである。
フラッシュ/バリー・アレンの冒険譚を、コミックファン以外にも魅力のあるものとして描きつつ、DCファンを必ず納得させ、しかもユニバースの分岐点となる映画に仕上げなければいけない。そこで製作陣が導入したのが、あくまでもフラッシュを軸に、さまざまなキャラクターや作品へのオマージュを詰め込むスタイルだった。その上で、本作は大きく4つのブロックに分けることができる。