Jul 07, 2019 regular
#02

『レザボア・ドッグス』:タランティーノと「盗んだ」デビュー作

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若林 ゆり

映画・演劇ジャーナリスト。90年代に映画雑誌『PREMIERE(プレミア)日本版』の編集部で濃い5年間を過ごした後、フリーランスに。「ブラピ」の愛称を発明した本人であり、クエンティン・タランティーノとは’93年の初来日時に出会って意気投合、25年以上にわたって親交を温めている。『BRUTUS』2003年11月1日号「タランティーノによるタランティーノ特集号」では、音楽以外ほぼすべてのページを取材・執筆。現在は『週刊女性』、『映画.com』などで映画評やコラムを執筆。映画に負けないくらい演劇も愛し、『映画.com』でコラム「若林ゆり 舞台.com」を連載している。

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前回はタランティーノの脚本デビュー作『トゥルー・ロマンス』を紹介しながら、彼のオタクな青春を考察したが、今回はさっそく監督デビュー作『レザボア・ドッグス』。タランティーノ映画の数々の独自性がすでに完成されているから驚きだ。

クエンティン・タランティーノのデビュー作『レザボア・ドッグス』は彼にとって“三度目の正直”だった。処女脚本『トゥルー・ロマンス』と2作目の『ナチュラル・ボーン・キラーズ』で映画監督になり損ね、その2本を売った金で今度こそは絶対に自分で監督するぞと固く決意した彼は、低予算で撮れる極上のクライム・ストーリーをひねり出した。もう待てない。「準備ができたら16ミリでゲリラ的に撮影しちまおう」という腹づもりでいた。なんとしても実績がほしかったのだ。監督作ができなきゃ誰も俺を映画作家だとは認めてくれないじゃないか、ほんとうの俺はとっくに映画作家だっていうのに!

映画の女神も、この映画信者に冷たい態度をとり続けることはできなかった。まずは彼を、低予算映画のプロデュース経験があるローレンス・ベンダーと出会わせる。『レザボア・ドッグス』の脚本を読んだベンダーはそのすごさに圧倒され、「16ミリで撮るなんてもったいない、ちゃんと資金を集めるから1年待て」とタランティーノを説得。タランティーノは「2か月しか待たないぞ!」と言い放ったのだが、この数か月の間に奇跡は起きた。

当時、演技の勉強をしていたベンダーは、演技コーチに脚本を読ませ「ハーヴェイ・カイテルみたいな俳優にやってもらえたら最高なんだけどな」と言った。するとコーチが女優である奥さんに脚本を渡し、その奥さんが旧知のカイテルに渡してくれたのだ。脚本を気に入ったカイテルはベンダーとタランティーノに電話をし「おい、俺を出してくれよ。それだけじゃなく、これを映画化するための手伝いをさせてくれ」と申し出た。かくして、貧乏な映画作家志望のタランティーノは一夜にしてシンデレラ・ボーイとなり、“ハリウッドの寵児”への道が開けたのである。

「とにかく、大がかりなセットなしで撮れる話でなきゃならなかった」とタランティーノは言う。「その前にちょうど〈ビデオ・アーカイヴス〉で犯罪映画の傑作を立て続けに観てさ、『何人かの犯罪者が一緒に仕事をするって映画は最近あまりないな』って気づいたんだ。強盗シーンを省いて、その前後の話をチャプターごと、キャラクターごとに小説みたいに語ろう。それが昔思いついて頭の引き出しにしまってあった強盗どもの話と結びついて、『こいつはイケるぞ』って確信したよ」

『レザボア・ドッグス』のプロットはとてもシンプル。宝石店強盗のために寄せ集められた6人のギャングたちの仕事が、無残な失敗に終わる。なぜか現場に警官が待ち受けていたのだ。派手な銃撃戦をかいくぐり、命からがら集合場所の倉庫に集まった男たちの間に緊張が走る。裏切り者は誰だ? そこから生き残ったやつらひとりひとりの知られざる姿が、チャプターごとにフラッシュバックでテンポよく明かされていく。