俳優のいちばんいい演技を引き出す資質
タランティーノ本人も白状する。「俺は俳優たちが大好きなんだ。それに監督の資質として、俳優のいちばんいい演技を引き出すという仕事はいちばん重要だって思ってる。この部分に関しては自信があるんだ。才能があって役にぴったりな俳優たちを集めて、彼らが居心地のよさを感じられるようにして、リラックスして自分の意見が言える自由な環境を作る。そしてこのシーンでは何が言いたいのかを、納得するまでよく話し合うことだ。だから俺はモニターは使いたくないんだ。カットがかかったとき、もし俳優の心に迷いや疑問が浮かんだら、すぐに監督に聞きたいはずだからね。それにモニターのちっこい画面じゃ演技なんか見えないし。映画っていうのは何を映すかじゃない、何を訴えたいかだ。それを訴えるのは俳優たちなんだ」
もちろん、この完璧なキャスティングにもタランティーノの映画的知識は大きくモノを言っている。たとえば、ヴィンセントにジョン・トラヴォルタを切望したのは(といっても筆頭候補はマイケル・マドセンで、彼はセカンドチョイスだったのだが)、ブライアン・デ・パルマの『ミッドナイト・クロス』でのトラヴォルタを「素晴らしい演技力を発揮している」と激賞していたからだ。キャラクターやストーリーの転がし方にも、映画やTVからの引用が多数。日本の作品からの影響もある。たとえば、ブッチが屈辱を受けているボスを救うために危険を冒すシーンで日本刀を持つところは「高倉健のように」というト書きがあり、その通りに演出されている。また、啓示を受けたジュールズが引用する聖書エキゼル書の一節は、実は聖書を探しても見つからない。なんとあれは〈ビデオ・アーカイブス〉時代に仲間たちと夢中で見た、サニー千葉(千葉真一)主演の『影の軍団』からヒントを得て生まれたシーンだという。千葉扮する服部半蔵が悪者を成敗する前に唱える決まり文句、あれをイメージして勝手に創作した一節だったのだ。
かくして、犯罪ジャンルをいままでになかったポップな味付けで、いままでになかった新鮮な切り口で語り、『クエンティン・タランティーノ映画』という新たなジャンルを切り拓いたタランティーノは、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。アメリカ国内でもオスカー(脚本賞)を含む各賞を受賞し、カルトの枠をブッ飛ばす人気者となる。まさにハリウッドの寵児となり、ロックスターのような熱狂を呼んだのである。
1994年に公開されるや世界的な熱狂を呼び、一躍アメリカのカルチャー・アイコンとなったタランティーノの監督/脚本第2作。カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー賞脚本賞を受賞した。
監督 クエンティン・タランティーノ
脚本 クエンティン・タランティーノ ロジャー・エイヴァリー
出演 ジョン・トラヴォルタ、ウマ・サーマン、サミュエル・L・ジャクソン、ブルース・ウィリス