Jul 13, 2019 regular
#03

『パルプ・フィクション』:タランティーノと新たな犯罪ジャンル

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若林 ゆり

映画・演劇ジャーナリスト。90年代に映画雑誌『PREMIERE(プレミア)日本版』の編集部で濃い5年間を過ごした後、フリーランスに。「ブラピ」の愛称を発明した本人であり、クエンティン・タランティーノとは’93年の初来日時に出会って意気投合、25年以上にわたって親交を温めている。『BRUTUS』2003年11月1日号「タランティーノによるタランティーノ特集号」では、音楽以外ほぼすべてのページを取材・執筆。現在は『週刊女性』、『映画.com』などで映画評やコラムを執筆。映画に負けないくらい演劇も愛し、『映画.com』でコラム「若林ゆり 舞台.com」を連載している。

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監督デビュー作で波に乗ったタランティーノが次に取りかかったのは、前作と同じ犯罪ジャンルの『パルプ・フィクション』。とはいえ彼独自のポップなテイスト、使い古されたジャンルをまったく別の角度から斬る“犯罪アンソロジー風”の斬新なスタイルは、映画に新しいジャンルを生み出すことになる。

『レザボア・ドッグス』1作で完全に波に乗ったクエンティン・タランティーノは、プロモーションで世界中を駆け回りながら第2作の脚本を執筆していた。筆者が初めて彼に会った、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の会場へ向かうバスの中でも、片手にペーパーバックの三文犯罪小説(=パルプ・フィクション)を、片手にノートとペンを持っていたっけ(はしゃぎすぎてペンも読書もまったく進んでいなかったが)。そのとき書きかけだった脚本が、『パルプ・フィクション』だ。前作に続いての犯罪ジャンルで、時制をバラした小説的な語り口というところも同じだが、テイストも語り方もまるで違う。この2作目は、もっと奇想天外で多様性に富み、カラフルでポップ。彼らしい仕掛けも進化を遂げていた。「1本の映画の中で3つの犯罪ストーリーを語ろう」というのが、アイディアの発端だった。

「オムニバスという形では、ホラーのジャンルならマリオ・バーバが『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』でやっていたけど、犯罪ジャンルではまだなかった。パルプ犯罪小説の世界ではよくあるのにさ。最初は3つの話を最初は別々に撮ってひとつずつ見せようと思ったんだけど、時制や人間関係をバラバラにして、再構築してみようと考えたんだ。これもパルプではよくある手法だからね。そこでさらにひらめいた。『待てよ、この3つの物語に、俺の生み出したキャラクターたちが自由に出たり入ったりしたら面白いんじゃないか?』ってね。J・D・サリンジャーが『ナイン・ストーリーズ』でグラス・ファミリーを描いたみたいに、共通のキャラクターを持ったアンソロジーにしよう。ひとつの話で主役をつとめるキャラクターが、別の話では脇役になる。この手法でいくと、最初は展開が見えないんだけど、独立した3つのストーリーを見ながらだんだんとひとつの世界が浮かび上がってくるわけさ。そして最後には『ああ、この映画が描いていたのはこういう世界だったんだ』とわかるんだよ。これなら1本分で3倍楽しめるだろ?(笑)」

コーヒーショップでのまあまあ長い会話から、’70年代テイストのサントラとともにタイトルが出るというスタイルは『レザボア・ドッグス』と同じ。しかし、実はオープニングの強盗カップル、パンプキン(ティム・ロス)&ハニーバニー(アマンダ・プラマー)は、3つのストーリーいずれのメイン・キャラクターでもない。非常に重要だが脇役だ。ひとつめのストーリーは、ギャングのヴィンセント・ヴェガ(ジョン・トラボルタ)がボスの命令を受け、ボスの愛妻、ミア(ウマ・サーマン)とデートをする話。ふたつめは、ボスと八百長試合の取引をしたのにぶっちぎるボクサー、ブッチ(ブルース・ウィリス)の話。3つめは、ボスを裏切った若者を制裁しに行ったヴィンセントとジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)が失敗をしでかし、その後始末をする話である。