Jun 19, 2025 news

アイスランドの俊英ルーナ・ルーナソン監督が描き出す、個と個の儚くも美しいつながり 映画『突然、君がいなくなって』

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――ウナの1日はまるでジェットコースターのようですね。魔法のような瞬間もあれば、恐ろしい瞬間もあります。

極限状態にあるときって、泣きたくなるようなことが同時に笑えることだったりもするんです。同じ感情の中に、相反するものが同居している。そういう瞬間を捉えたいと思いました。

――『Sparrows(2015)は少年の成長を描いていましたが、若者の物語を描きたいという気持ちがあるのですか?

22歳って、もう子どもじゃない。でも大人としての“第一段階”にいる時期なんです。これは「成長物語」とも言えるかもしれませんが、すべてのキャラクターの変化は“成長”と言えます。Volcano』(2011)では67歳の男性が成長を経験しました。

この映画では、若者たちが大人として最初の大きな試練に直面します。この時期は自分が無敵だと感じているけど、自分が誰なのかをまだ完全には分かっていない。でも世界が複雑だということは理解している。ウナは、非常に強い若い女性です。外からはタフに見えるけど、その奥にある小さくて壊れやすい心が感じ取れるんです。

――ウナとディッディの間には、最初の2シーンで即座に親密さを感じました。それはどうやって表現したのですか?

2人の関係性を描くための時間はあまりなかったので、一発勝負でした。彼ら2人は本当に優れた俳優であり、素晴らしい人間でもあるんです。自分の中にある何かとつなげて、リアルな感情を表現してくれました。彼らは「愛」を理解している人たちです。

――映画のタイトル(原題:LJÓSBROT「光の屈折」)にもあるように、光の使い方がとても印象的でした。特に2つの日没のシーンは圧巻でした。

登場人物たちは大人になり始めたばかりの時期にいて、映画の舞台も春の終わりから初夏。太陽が低く地平線にある時間帯で、特別なエネルギーがある季節です。それは「命の約束」や「これから来る夏の予感」といったものを象徴しています。特に海辺のシーンでは、本当に理想的な光の条件に恵まれました。

―ヨハン・ヨハンソンの楽曲「Odi et Amo」が繰り返し使われていましたね。なぜ既成曲であるこの曲を選んだのでしょうか?

それまでの私の作品は、シガー・ロスのメンバーであるキャータン・スヴェインソンに頼んでいたのですが、彼が自身の活動でツアー中だったんです。どうしたものかと思ったときに浮かんだのが、私の知人でもある、2018年に亡くなったヨハン・ヨハンソンの楽曲で、大好きな「Odi et Amo」でした。元々はラテン語の詩なんですが、日本語訳は「我憎み、且つ愛す」。良い人間でありたいと思っていても、妬みだとか色々な感情を抱えて、常に自分が誇れる存在ではない。心になかなか従えず、ときに恥じるようなことをしてしまう。今回はこの若者たち、特にこの女性の2人が喪失を経験して、徐々にお互いを受け入れていきますよね。そういった部分で、この映画に非常にフィットすると思いました。

映画『突然、君がいなくなって』は、2025年6月20日(金)より全国順次公開。

作品情報
映画『突然、君がいなくなって』

アイスランド・レイキャビクの美大に通うウナには、大切な恋人ディッディがいる。しかし、2人の関係は秘密だ。彼には遠距離恋愛をしている長年の恋人、クララがいる。ある日ディッディはクララに別れを告げに行くと家を出た後、事故に巻き込まれ帰らぬ人となってしまう。誰にも真実を語ることができないまま、ひとり愛する人を失った悲しみを抱えるウナ。そんなとき、何も知らないクララが現れて‥‥。

監督・脚本:ルーナ・ルーナソン

出演:エリーン・ハットル、ミカエル・コーバー、カトラ・ニャルスドッティル、バルドゥル・エイナルソン、アゥグスト・ウィグム、グンナル・フラプン・クリスチャンソン

配給:ビターズ・エンド 

©Compass Films,Halibut,Revolver Amsterdam,MP Filmska Produkcija,Eaux Vives Productions,Jour2Fête,The Party Film Sales bitters.co.jp/WTLB

2025年6月20日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

公式サイト bitters.co.jp/totsuzen/