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コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第109回
俳優の松坂桃李が、7月9日に東京国際フォーラムで行われた、映画『ユリゴコロ』のキックオフ会見に出席した。
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これまでにも様々な人間やチームが映像化を狙ってアプローチしてきたが、そのどれもが上手くいかず、まさに映像化不可能と言われ続けてきた、沼田まほかるによる原作をついに映画化した本作。
撮影は、[過去編]と[現代編]に分けて行われ、会見の前日となる7月8日をもってようやくクランクアップを迎えたという、出来立てホヤホヤの作品でもある。
メガホンを執ったのは、『君に届け』(2010年)や『近キョリ恋愛』(2014年)などで知られる熊澤尚人監督。
熊澤監督は「撮影ができて嬉しかったです。難しさはありましたが、俳優の皆さんが良い形で芝居をしてくれたおかげで、不可能を可能にしてくれました」と、満足げな表情を浮かべながらも、「[過去編]と[現代編]を一度に連続で撮っていたら、撮影できなかったと感じるくらい内容が濃いというか、スタッフだけではなく、俳優の体力や知力を全て奪うような過酷な撮影でした」と述懐。
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そんな中で、松坂は[現代編]でカフェを営む青年【亮介】役を務めているが、撮影するにあたっては「過去編は観ませんでした」と明かし、「過去編に関わってくる1冊のノートが出てくるんですけど、なるべく映像は観ずに、自分で想像しながらやっていきたいと思ったんです。ミステリーなんですが、色々な形の愛がある話だなぁと、撮影が終わってから改めてそう感じました」と語っていた。
また、松坂が撮影に参加した[現代編]では、吉高由里子や松山ケンイチらとの絡みはなく、【千絵】役の清野菜名と、【細谷】役の木村多江とのシーンだけだったようだ。それを表すかのように、キャスト陣が一堂に会した今回の会見の場で、「こう並んでますけど、親近感が湧きません(笑)」と発言する吉高の姿が見られた。
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改めて、松坂は「深夜から朝まで撮影したり、大変なシーンもたくさんあって、嵐がやってくるような撮影でしたが、僕は清野さんと木村さんとできて楽しかったです」と、2人との共演シーンを振り返ると、「これだけ過去と現代が分かれている作品はないと思います。熊澤監督が絶妙な仕掛けをチョイチョイ入れているので、それが繋がった時に、どのようにして一つの作品になるのかとても楽しみです」と、映画の完成が待ち切れないといった様子の松坂だった。
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ちなみに、吉高は「昨日撮り終わって、2ヶ月後に公開なんてできるの? 大丈夫ですか?何か手伝うことあります?」と、映像化は可能だったが、公開が不可能になることを懸念していたのだった。
会見にはその他、出演の松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名、木村多江が出席した。
映画『ユリゴコロ』(東映/日活配給)
映画『ユリゴコロ』(東映/日活配給)は、人間の死を心の拠り所にして生きる、悲しき殺人者の宿命と葛藤を、過去と現在を交錯させて描いた、沼田まほかるによる同名小説を映画化したミステリー作品。