コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第67回
前日の4月26日に28歳の誕生日を迎えた、女優の水崎綾女が、27日に新宿明治安田生命ホールで行われた、映画『光』の完成披露試写会舞台挨拶に登壇した。
「お誕生日おめでとう!!」、そして、昨年7月に一般男性との結婚を発表していることから、水崎に対し改めて公の場で「結婚おめでとう!!」と、お祝いしたいところだったが、本作が「第70回カンヌ国際映画祭」(5/17〜28)のコンペティション部門に出品されることが決定したため、会場は「カンヌへ行ってらっしゃい!!!」のムード一色となっていた。
今回、カンヌに初参戦する水崎は「まあ実感がないですね。皆さんから『おめでとう』と言われたり、取材をたくさんしていく中で少しずつ実感するようになってきました」と、緊張の面持ちで語ると、「撮影が終わってから皆さんにお会いするのは久しぶりで」と話し始めた頃には声も震え、目には光るものが。どうやら、緊張と感動で胸がいっぱいになっていた様子だった。
その水崎。劇中では、視覚障碍者に向けた「映画の音声ガイド」、つまり、映画の登場人物の動作や情景を言葉で伝える仕事に就く女性【尾崎美佐子】を熱演している。
また、カンヌへの出品が決まった時のことについて、今回で7度目のカンヌとなる河瀨直美監督は「フランスにいるプロデューサーから電話をもらったのは、フランスでは深夜になるかならないかくらいの時間で、日本では明け方でした。一報を聞いた時は、太陽が昇って自宅のリビングに光が射していました。これから光というものが世界を巡るんだと思ったら号泣していました。こんなことは今までで初めてでした」と、今やカンヌの常連になっている河瀨監督にとっても、やはりそこは“特別な場所”であることを改めて伝えていた。
そんな河瀨監督から朝方に連絡をもらったという永瀬正敏は「「おめでとうございます」「ありがとうございます」しか言えずに、電話を切り終わった時には僕も号泣してました」と、こちらも河瀨監督同様、射し込んだ光に涙が止まらなかったようだ。
さらに永瀬は、完成した作品を観た時のことについて「もう言葉にできなくて、監督と握手したんですが、その後一人になりたくなって、会場をとっとと出たんです。(作品の中に)全てを置いてきた感じだったので、それを消化する時間が必要でした。まるで自分の遺作を観たような気分でしたね」と、“徐々に視力を失っていく天才カメラマン”という役柄に、まさしく精も根も尽き果てるくらい、全身全霊で臨んでいたことを明かしていた。
そして、「映画の音声ガイド」を扱った本作について、河瀨監督は「映画というのは、目が見えない人には無縁のものみたいになってると思いますが、映画の音声ガイドというのをやっている人がいるんだと知った時に、スクリーンが見えなくても感じることがあるのかもと思えたんです。人間と人間の関係性を表現するのに、見える見えないの分け方じゃない見え方というものが、この映画には存在しています」と語っていた。
最後には、「映画監督、河瀨直美の全てを注ぎ込みました。世界で一番素晴らしい映画です」と、カンヌ出発前に力強い言葉を残していった河瀨監督であった。
舞台挨拶にはその他、出演の神野三鈴、藤竜也も登壇した。
映画『光』(キノフィルムズ/木下グループ配給)
映画『光』(キノフィルムズ/木下グループ配給)は、視覚障碍者のための「映画の音声ガイド」の制作に携わる女性が、視力を失いゆく天才カメラマンとの出会いを通して、成長し変化していく様子を描いた作品。
公式サイト http://hikari-movie.com/