コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第54回
『孤狼の血』の製作発表会見が4月3日、グランドハイアット東京で行われた。
会見には、白石和彌監督、原作者の柚月裕子、出演の役所広司、松坂桃李、真木よう子、石橋蓮司、江口洋介が出席した。
今、日本映画界で最も“安心して”見られる俳優の一人であろう、役所広司。 その圧倒的な存在感で、シリアスな役からコミカルな役まで、“人間臭さ”を演じさせたら右に出る者はいない。
暴力団組織間の激しい抗争を描き、「警察小説」×『仁義なき戦い』と評される、作家・柚月裕子の同名小説を映画化した本作で役所は、独自の矜持を持ちながらも悪徳警官とされる、呉原東署捜査二課主任【大上章吾】を演じている。
今回もやはりその存在感は圧倒的なのだろうか。今から完成が楽しみである。
役所広司は、1956年に長崎県で生まれ、高校卒業後は上京して、千代田区役所に勤務。その頃に友人と観劇した、仲代達矢主演の舞台『どん底』に感銘を受け、俳優の道を志すこととなる。 そして、仲代が主宰する俳優養成所「無名塾」の試験に合格すると、仲代の命名で、本名の橋本広司から役所広司という芸名を頂戴した。 名前の由来は、役所広司の前職が役所勤めだったことと、「役どころが広くなる」という思いを込めてとのこと。
ちなみに、本作には、その「無名塾」出身の俳優、真木よう子と滝藤賢一も出演しているが、クラブ「リコ」のママ【高木里佳子】役を演じる真木は、役所について「役所さんとは事実上、今回初めて絡みます。役所さんは尊敬している俳優なので、大上役を役所さんがやると聞いた時は、すごく格好良くなると思い楽しみにしていました」と、絶大なる信頼を寄せていたのだった。
作品の評価とは裏腹に、ヒットに恵まれない時期が続いていた役所だが、主演を務めた映画『Shall we ダンス?』(1996年)や『失楽園』(1997年)が大ヒットを記録すると、今村昌平監督作『うなぎ』では、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞するなど、名実ともに日本を代表する俳優の一人として認識されるようになっていった。 さらに、2005年には『SAYURI』(ロブ・マーシャル監督/チャン・ツィイー主演)、2006年には『バベル』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督/ブラッド・ピット主演)、2007年には『シルク』(フランソワ・ジラール監督/マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ出演)に出演するなど、その勢いは海外にも波及し、圧倒的な存在感をそこでも発揮した。
役所勤めをしていた頃の橋本広司の面影はもはやない。 そのオーラ、その迫力をもって今まさに、“役者広司”が堂々と存在しているのである。
映画『孤狼の血』(東映配給)
映画『孤狼の血』(東映配給)は、暴力団組織間の激しい抗争を描いた、柚月裕子による同名小説を映画化したハードボイルド作品。