コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第36回
渋谷系のカリスマは語る
本作は、ニューヨークの広告代理店で成功を収めた男が、ある出来事をきっかけに人生のドン底に陥るが、奇妙な舞台俳優たちとの出会いを通して再生していく様子を描いた作品だが、その中で、ウィル・スミス演じる【ハワード】は、広告を人に伝えるための、ある大事な3つのワードを語っている。 それが何なのかは映画を観てのお楽しみだが、とても胸に刺さる言葉だった。
そんな見応え十分の映画『素晴らしきかな、人生』の公開を記念して、2月14日のバレンタインデーの夜にトークイベントを開催。そこに登場したのが、渋谷系と呼ばれた、元ピチカート・ファイヴのヴォーカル・野宮真貴だった。 トークの内容は非常に興味深いものがあり、野宮のこれまでの人生が30分という短いイベントの中にギュッと凝縮されていたような気がする。
それを【ハワード】が語った3つのワードと絡めながら少し紹介していきたい。
映画を一足早く鑑賞した野宮は、「恋愛とか友情とか親子の愛とか、色々な愛が描かれていて感動しました。役者も素晴らしくて、観る人が共感できる登場人物が1人はいると思います」と絶賛し、「恋愛は力になります。恋すると世界が広がると思うので、是非皆さんも恋愛を経験してください」と、[愛]を推奨していた。
また、映画の見どころの一つにもなっているのがファッション。 野宮自身も昨年、『赤い口紅があればいい いつでもいちばん美人に見えるテクニック』(幻冬舎)という書籍を世に送り出すなど、美やファッションには[愛]を持って接している。
野宮は、“美人に見えるコツ”について「赤い口紅は手っ取り早く美人になれますよね。あと、ハイヒールもそれに並んでオシャレなアイテムだと思います。(映画の中で)ケイト・ウィンスレットがモノトーンの中にも、トム・フォードのハイヒールを履いて女性力をアップさせていましたし、ニューヨークで仕事が出来る女を演出する小道具になってましたね」と分析。野宮も、シーンに応じてフラットなシューズとハイヒールを使い分けていることを明かしていた。
次に、映画の舞台となっているニューヨークについて、野宮は「90年代に、渋谷系と呼ばれて、ピチカート・ファイヴのヴォーカルを務めていましたが、当時はアメリカでもデビューをして、レコード会社もニューヨークにあったので、いつも行ったり来たりしてました。だから、ニューヨークはセカンドホームタウンと言える場所ですね。90年代のニューヨークはクラブカルチャーが盛んでしたし、私もパトリシア・フィールドの店が好きでよく行ってました」 と、人生の[時間]を巻き戻して、懐かしげに振り返っていた。
さらに、「デビューして35年になりますが、最初の10年は鳴かず飛ばずでした。でも、歌うことが好きだったので、諦めずに歌い続けていたらチャンスが巡ってきて今に至ります。当時は、事務所に給料をもらいに行く時も、片道のお金しかなかったくらいです(笑)」と、下積み時代についても赤裸々に語っていた。
そして、今年で57歳になる野宮は、同年代の、そのまた上の世代の女性に向けてもエールを送っていた。 野宮は「ヘレン・ミレンのブルーで統一したコーディネートは素敵でしたね。ヘレンは70代だと思うんですが、私もその素敵な装いは参考になりました。日本の女性って年齢を重ねると地味になるから、もっとピンクとか赤とかを取り入れて楽しんでもらいたいです」と、年齢を重ねれば重ねるほど、あらゆる意味で[死]というものを意識してしまうが、幾つになろうとも、“美しい女性”であり続けることへの追求の手は休めないことを望んでいたのだった。
『素晴らしい人生だった』 死ぬ間際にそう言えることができたらどんなに幸せだろうか。 しかし、 『人生って素晴らしい』 毎日そう思っていられることも、それ以上に幸せなことかもしれない。
【ハワード】が語った3つのワードとは一体何なのか。 それは、人間なら誰しもが抱くであろう、ごく自然な感情である。
映画『素晴らしきかな、人生』(ワーナー配給)
映画『素晴らしきかな、人生』(ワーナー配給)は、『プラダを着た悪魔』のデヴィッド・フランケル監督が、クリスマスシーズンのニューヨークを舞台に、人生のドン底にいた男が、奇妙な舞台俳優たちとの出会いを通して再生していく姿を描いたヒューマン・ドラマ。