コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第34回
『サバイバルファミリー』の初日舞台挨拶が2月11日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた。
舞台挨拶には、矢口史靖監督、出演の小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、時任三郎、藤原紀香、大野拓朗、志尊淳が登壇した。
「何だか分からないですけど、選ばれると嬉しいもんですね」
そう語るのは、電気が消滅しサバイバルを余儀なくされる、
鈴木ファミリーのお母さん【鈴木光恵】を演じた深津絵里。
深津が何を嬉しがっていたかというと、鈴木ファミリーの中で“一番生き延びられそうな人”に選ばれたため。
お父さん【鈴木義之】役の小日向文世から「食に対する貪欲さがハンパないんです。虫でも何でも食べそうで。僕には無理ですね、インドアだから」と、生への執着心を褒められると、娘【鈴木結衣】役の葵わかなは「豚を追い掛ける撮影でも戸惑いがなかったです(笑)」と言われ、息子【鈴木賢司】役の泉澤祐希も「一目散に飛んで行きましたもんね(笑)」と、激しくそれに同調していた。
「何だか分からないけど嬉しい」は、これらの称賛? を受けての、深津の言葉だった。
女優・深津絵里は、もはやスクリーンを通して虚構を見ているのか、現実を見ているのか、その区別がつかなくなるくらいのリアルな演技で、観る者に毎回素晴らしい作品を提供してくれる。
さらに、感情表現が豊かと言うべきか、喜怒哀楽を表すのが非常に上手い役者でもある。
喜んでも良し、怒っても良し、哀しんでも良し、楽しそうにハシャいでいても良し。どの表情をとってみても、深津が一流のエンターテイナーであることは疑いようがない。
たまに、『不幸が似合う女優』というのが取り沙汰され、木村多江や奥貫薫、西田尚美らの名前が上位に挙げられるが、深津に関して言うと、“不幸”というよりも、“ちょっとした災難”の方がピッタリな感じで、困った表情をしながら「もぉ、どうして?」、「なんで私ばっかりこんな目に遭うの?」というセリフが本当によく似合うというか、“何をやっても上手くいかない”なんて役をやらせたら天下一品だと思う。
今回の『サバイバルファミリー』でも、口先だけで何も出来ない夫に振り回される妻を、文字通り体を張って、全身泥だらけになりながら見事に好演している。
まさに、女優・深津絵里が魅せる、食に対してだけではない、役作りに対する貪欲さの賜物でもあった。
そして、その貪欲さこそが、演技派女優と呼ばれる所以であり、役者として生き延びるためのサバイバル術なのかもしれない。
初日の舞台挨拶の壇上で深津は、汗や泥を一緒に分かち合ってきた夫・小日向に対して、「公開までの長い道のり、お疲れ様でした。こんなにキュートな63歳はどこにもいません。一生カワイイ人でいてください。ずっと大好きです!」と、最上級の愛情表現。
その言葉を受けた小日向は「今の一言でやって良かったと思いました。今までの(大変だった)ことが全て吹っ飛びました」と喜びをあらわにし、ドSの矢口史靖監督から受けた現場での“しごき”の数々を一瞬のうちに記憶の中から消し去っていたのであった。
映画『サバイバルファミリー』
映画『サバイバルファミリー』(東宝配給)は、『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』の矢口史靖監督が、電気が消滅した東京から脱出を図ろうと奮闘する一家の様子をコミカルに描いたサバイバル・ドラマ。
監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖、矢口純子(脚本協力)
出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、菅原大吉、徳井優、林雀々、森下能幸、田中要次、有福正志、大野拓朗、志尊淳、左時枝、ミッキー・カーチス、時任三郎、藤原紀香、渡辺えり、宅麻伸、柄本明、大地康雄 ほか
佐々木誠
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