コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第32回
『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』の初日舞台挨拶が2月4日、新宿バルト9で行われた。 舞台挨拶には、浄園祐プロデューサー、小池健監督、声優キャストの栗田貫一、浪川大輔が登壇した。
「浪川大輔が石川五ェ門になった作品」
そう語るのは、【ルパン三世】の声を務める栗田貫一。 以前から親交のあった、今は亡き山田康雄さんからバトンを受け取り、1995年公開の映画『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』で、初めて【ルパン三世】の声を担当してから、早いもので今年で22年になる。
当初は、山田康雄さんが演じていた大人でシブい【ルパン】とは違って、ポップで三枚目すぎる【ルパン】に違和感を感じる人も多く、栗田本人も相当悩んでいたそうなのだが、周りの支え、そして、栗田自身の“意識改革”によって新しい【ルパン】像を形成し、【次元大介】役の小林清志、【石川五ェ門】役の井上真樹夫、【峰不二子】役の増山江威子、【銭形警部】役の納谷悟朗らとともに、栗田版『ルパン三世』を完成させていった。
しかし、月は流れ、2005年に国民的アニメ『ドラえもん』の声優陣が一新されると、その波は『ルパン三世』の“現場”にも到来し、2011年放送のTVスペシャル『ルパン三世 血の刻印 〜永遠のMermaid〜』で、小林清志以外のキャストが一新された。
新たに、【峰不二子】役に沢城みゆき、【銭形警部】役に山寺宏一、そして、【石川五ェ門】役に浪川大輔を迎えることとなった。
浪川は、子役時代から声優として活躍。そのキャリアは実に30年以上にもおよび、アニメやゲームのほか、ハリウッドスターのイライジャ・ウッド、ヘイデン・クリステンセン、レオナルド・ディカプリオなど、洋画の吹き替えも多数務めている。 しかし、その長いキャリアの中では、子役時代に経験した仕事と学業の両立や、一般人と同じような将来への不安や社会の厳しさなど、様々な苦悩や葛藤が浪川にもあったようだ。
そんな浪川が、いや【石川五ェ門】がフューチャーされることになった映画『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』がいよいよ公開の運びとなった。
本作は、2014年公開の『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』に続く、『ルパン三世』のスピンオフ作品となるが、浪川は「2年くらい前から、『次は五ェ門だぞ』とプレッシャーをかけられていたので、僕としてはずっと石川五ェ門像を追っていた状態でした。栗田さんたちに背中を支えてもらいながら、精一杯やらせて頂きました」と打ち明け、さらに、「『ルパン三世』という作品を支えてくださっている皆さんの期待を裏切らないということを第一使命としてやっていました。五ェ門の息一つにしても何テイクもかけたりして」と、相当な“責任”を背負いながら収録に臨んでいたことも明かしていた。
現場での緊張感は栗田にも伝わっていたようで、「作品を収録している時から、浪川大輔という人が悩み苦しみながら、五ェ門をどう演じていくのかというのがあったので、それを乗り越えて作った作品であり、まさに“浪川大輔が石川五ェ門になった”作品でもあると思います」と、劇中でルパンが五ェ門を見守っているように、現場で栗田も浪川を優しく見守っていたことが窺えた。
また、栗田は「沢城みゆきという人は、いつの間にか【峰不二子】になっていました。モノマネ的に言うと、前の峰不二子とは一つも似てないんですが、なぜか峰不二子になってるんです。すごい力があるなぁと思いました。山寺宏一君も今の【銭形】になっちゃってますし、大ちゃん(浪川)も同じように石川五ェ門になっちゃってますね」と、新たな仲間たちの『ルパン三世』という作品に対する熱意と、声優としての力量に改めて敬意を表していたのだった。
栗田のこの言葉は、浪川にとってどれだけ嬉しいものだっただろうか。
すでに井上真樹夫が完成させていた、『ルパン三世』の【石川五ェ門】像を、ゼロからとは言わないが、まさにイチから作り直すことへの不安とプレッシャー。声優として30年以上のキャリアがありながらも、それは計り知れないものがあっただろう。 山田康雄さんが所有していた【ルパン三世】という大きすぎる遺産を譲り受け、浪川と同じように悩みや苦しみを抱えていた栗田。他の誰でもない、そんな栗田の言葉だからこそ響くものがあったに違いない。
舞台挨拶の最後に、浪川は「初日を迎えることができて、僕の中でだいぶホッとしています。これからもプレッシャーを感じながら、五ェ門を大切に演じていきたいです」と、安堵の想いとともに、今後も【石川五ェ門】を演じ続けていくことへの決意表明をしていたのであった。
映画『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』(ショウゲート配給)
映画『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』(ショウゲート配給)は、『ルパン三世』のレギュラー・キャラクターである石川五ェ門の若き日を描いたスピンオフ作品。
監督:小池健 脚本:高橋悠也 声の出演:栗田貫一、小林清志、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一 ほか