コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第26回
『新宿スワンII』の初日舞台挨拶が1月21日、TOHOシネマズ新宿で行われた。 舞台挨拶には、山本又一朗プロデューサー、園子温監督、出演の綾野剛、浅野忠信、広瀬アリス、上地雄輔、金子ノブアキ、深水元基が登壇した。
「心の友と書いて“心友(しんゆう)”です。僕にとって【龍彦】は存在している」
『新宿スワン』という作品、そして、自身が演じた【白鳥龍彦】という役について、こう語った綾野剛。 綾野の言葉には、何故かいつも深みがある。だからこそ面白く、毎回聞き応えがあるのだ。
先日発表された、「第40回日本アカデミー賞」では、『新宿スワン』とは別の作品となるが、実在の汚職警官を演じた『日本で一番悪い奴ら』で優秀主演男優賞を受賞(最優秀の発表は3月3日の授賞式にて)するなど、今や俳優としてノリに乗っている綾野。
改めてこの1年を振り返ると、「しっかり走らないといけない年でした。そして、自分と関わった人たちも一緒に巻き込んで愛していくということに重点を置いていて、まさにそのスタートが『新宿スワンII』でした。前作を終えて『II』の撮影に入った時に思ったのは、この作品は未来を見る喜びを与えてくれた作品だということでした」と、綾野節を炸裂させていた。
綾野の俳優デビューは、2003年の『仮面ライダー555(ファイズ)』での怪人役。高校まで陸上選手として鍛えた自慢の脚力で、颯爽とヒーローの世界へと飛び込んだわけだが、ここに【俳優・綾野剛】を形作る原点があった。
恩師・石田秀範監督との出会いである。
[役者なんてやりたくてやってるわけじゃない。何でこんなに何回も撮り直されて恥をかかされなきゃならないんだ]
綾野の中に渦巻く、そういった若い気持ちを石田監督に見透かされ、役者の何たるか、プロとは何たるか、そして、本物とは何たるかを叩き込まれたようだ。
その礎があるからこそ、俳優・綾野剛として表舞台に立つ時には、常にプロとして、本物としてということを意識し、発言や行動に気を付けているのかもしれない。
こんなことを言うと、クールで気難しい人間というイメージを持ってしまいがちだが、本人はなかなかにお笑いが大好きなようで、バラエティ番組などに出演している綾野の姿を見ていると、“番宣で渋々”という感じではなく、いつも純粋に心の底から楽しんでいる様子が窺える。
また、綾野自身はボケとツッコミなら、どちらかと言うと“ツッコミタイプ”らしく、今回の舞台挨拶中にも、共演の上地雄輔(森長千里役)から「ボケて」と言われると、「ボケる? ん〜、僕はツッコミなんだけど」と、軽く拒否。 しかし、締めの挨拶では、「私事ですが、祖父が今日誕生日なんです。こんなことってあるんですね」と、祖父の誕生日と映画の初日が重なったことを感慨深く語り会場から拍手を受けるも、「今は空から見ていると思います」と、続け、すかさず上地から「死んだんかい! 完全に生きてると思ってみんな拍手してたよ!(笑)」と、激しくツッコまれている、お茶目な綾野の姿もあった。
これまでたくさんの舞台挨拶を取材してきて、この人の話は面白い。何か惹きつけるものがあると思った俳優が3人いる。
1人は、奇抜で個性的な発言で魅了する窪塚洋介。
もう1人は、哲学的で言葉のチョイスが知的な堺雅人。
そして、綾野剛である。
この中でも特に綾野が発する言葉は独特で、台本でもあるのかと疑いたくなるくらい、妙に人を説得し納得させる力がある。 聞く者の心を鷲掴みにし、己の世界へと“勧誘”してしまう。綾野剛は言わば、真のスカウトマンなのである。
映画『新宿スワンII』(ソニー・ピクチャーズ配給)
映画『新宿スワンII』(ソニー・ピクチャーズ配給)は、和久井健による人気コミックを実写映画化した『新宿スワン』の続編で、新宿歌舞伎町のスカウトマンたちの新たなる野望と戦いを描いた作品。 監督:園子温 脚本:水島力也 出演:綾野剛、浅野忠信、伊勢谷友介、深水元基、金子ノブアキ、村上淳、久保田悠来、上地雄輔、広瀬アリス、高橋メアリージュン、桐山漣、中野裕太、笹野高史、要潤、神尾佑、山田優、豊原功補、吉田鋼太郎、椎名桔平 ほか