コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第23回
『本能寺ホテル』の初日舞台挨拶が1月14日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた。 舞台挨拶には、鈴木雅之監督、出演の綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、平山浩行、田口浩正、高嶋政宏、近藤正臣、風間杜夫が登壇した。
「リーダーになりたがる人は嫌だなぁ。面倒臭い」
理想のリーダー像についてそう語るのは、本作『本能寺ホテル』で、親方様こと【織田信長】役を務めた堤真一。
ただ、上の言葉でも分かるように、実際の堤本人の性格は、信長が発揮する圧倒的なリーダー像とは少しかけ離れているようだ。
高校を卒業後、千葉真一が主宰する「ジャパンアクションクラブ」、通称JACに入門した堤。その頃は先輩である真田広之の付き人として、身の回りの世話などをしていたそうだが、怒られる機会も多く、俳優として成功し、独り立ちした今でも、真田との共演は付き人時代のことが頭をよぎってしまいNGなのであるという。
真田広之という親方様に従い忠義を尽くすその姿は、どちらかと言うと、織田信長よりも、それに仕える豊臣秀吉のようでもある。
堤真一の名が広く世間に知られるようになったのは、フジテレビで放送されたドラマだと思われる。
1つ目は、1996年放送の『ピュア』。
和久井映見演じる、軽度の知的障害を持つ女性【折原優香】の、天性の才能と、天真爛漫な性格に興味を覚え、心奪われていく、フリー記者の【沢渡徹】をクールに好演した。
2つ目は、2000年放送の『やまとなでしこ』。
お金持ちにしか興味がなく、玉の輿に乗ることだけを生きがいにしている、松嶋菜々子演じる美人客室乗務員【神野桜子】に恋をし、振り回される貧乏な青年【中原欧介】を熱演した。
特にこの作品の影響力は凄まじく、堤真一の名が一気に知られることとなった。
そこからの活躍は周知の通りで、『Always 三丁目の夕日』シリーズでは、喧嘩っ早い短気な頑固オヤジを、『クライマーズ・ハイ』では、硬派な新聞記者を、『SP』では、屈強な警察官を演じ、JACで培ったアクションも惜しげもなく披露した。
さらに、映画やドラマの世界だけに留まらず、舞台やCM、ナレーションの仕事まで活躍の場を広げている。
そして、二枚目の役ばかりではなく、兵庫県西宮市出身だけに関西のノリで三枚目の役も難なくこなし、カッコいい者からカッコ悪い者、計算高い者からお調子者まで、今やどんな役でも任せられるような、見ていて“安心できる”俳優の一人にまで上り詰めた。
堤真一の名がそこにあるだけで、作品のクオリティがグッと上がるようなイメージも出来つつある。
最近では、舞台挨拶などでのトークの技術も冴え渡っており、今回の『本能寺ホテル』においても、撮影時のエピソードについて「田口君(田口浩正)と岳君(濱田岳)と僕で同じ新幹線に乗って岡山に向かう時に、僕だけ違う車両だったんですけど、2人は酒盛りしていて、岡山に着いてホームに降りてみたら、2人が全然降りてこないんですよ。見てみたらまだ酒盛りしていて、僕が外から窓を叩くと、田口君だけすぐに降りてきたんですが、岳君は間に合わずに、そのまま広島まで行っちゃいました(笑)」と、ストーリー仕立てに面白可笑しく語ると、対する濱田岳も「参りましたよぉ。堤さんが外から窓をトントントントンやってるから、“ヒノノニトン”かと思ってました(笑)。降りようとしたんですが間に合わず、漫画みたいにドアが閉まって、「さようなら~」って」と返すなど、軽妙なやり取りが垣間見られた。
また、MCからの『この中の誰が天下統一しそうですか?』の問いには、大半のキャスト陣が綾瀬はるかを指名し、綾瀬本人も「え~、いいんですか?(笑)」と、満更でもない表情を浮かべる中、堤だけは「俺は嫌だな。こんなスットコドッコイ」と、鋭いツッコミを入れる場面も。
硬派な中にも軟派な部分があることで、硬くて近寄り難いゴツゴツとした木に、親しみやすさと柔らかさという実がなり、それがやがて人を惹きつける“魅力”へと成長していく。 堤真一という俳優も、そういった魅力に溢れた人間だからこそ、ここまで人気が衰えることなく第一線で活躍できているのかもしれない。
今後も、俳優としてのキャリアをドンドンと積み重ね、トントントントン拍子にその階段を上っていくことを期待して。
映画『本能寺ホテル』(東宝配給)
映画『本能寺ホテル』(東宝配給)は、『プリンセス トヨトミ』のキャスト&スタッフが再結集し、「本能寺の変」の前日にタイムスリップした現代女性が、織田信長の命を救うべく奔走する姿を描いた歴史ミステリー。
監督:鈴木雅之 脚本:相沢友子 出演:綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、平山浩行、田口浩正、高嶋政宏、近藤正臣、風間杜夫 ほか