イスラム国に囚われ、奇跡的に生還した写真家とその家族の物語
2013~2014年、398日間にわたってIS(イスラム国)の人質となり奇跡的に生還した若き写真家が体験した地獄と、救出のために奔走した家族の398日間を追った衝撃の実話の映画『ある人質 生還までの398日』が、いよいよ 2 月 19 日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほかにて公開される。
プク・ダムスゴーが書き上げた「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)を原作に、398日間にわたってシリアで過激派組織IS(イスラム国)の人質となり、奇跡的に生還を果たしたデンマーク人写真家ダニエル・リューの過酷な体験と、決して諦めなかった家族の奔走をスリリングかつ感動的に描き出した本作。 ISの真実を人質の視点で初めて内側から本格的に描いたことでも注目され、2019年に公開されたデンマークでは大ヒット!その年に公開されたデンマーク映画としてはNo.1の興収を記録。さらにデンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)ではダニエルを演じたエスベン・スメドが主演男優賞を受賞したほか、助演女優賞、観客賞、脚色賞を受賞した話題作だ。
関連リンク→映画『ある人質 生還までの398日』- 家族愛、そして人間の尊厳を描いた実録救出劇 – 2月公開
シリアで武装勢力に拘束された経験をもつ安田純平さん登壇のトークイベントレポート
この度、公開に先駆け2月7日(日)にユーロライブ(渋谷)にて一般試写会を開催。その上映後に、ジャーナリストの安田純平さん、そして映画評論家の森直人さん登壇のトークイベントを実施された。
2015 年から 3 年 4カ月にわたってシリアで武装勢力に拘束され無事解放された経験をもつ安田純平さんは、劇中主人公ダニエルと同じ部屋で監禁されていたアメリカ人ジャーナリスト ジェームズ・フォーリーと実際に交流があり、安田さんならではの本作への思い、さらにご自身の体験にも言及しながらの鋭い解説など、興味深い話しが続いた。
上映後、まず登場した映画評論家の森直人さんから、「この映画は問題提起の映画だと思います。なぜこういうことが起こったのか、その背景をできるだけきっちり押さえることが重要だと思います」という解説のあと、続いてジャーナリストの安田純平さんが登壇し、トークイベントがスタート。
映画にも出てくるジェームズ・フォーリーと同じ部屋に一週間くらい宿泊していた…
森直人さん:先ほど舞台裏でも色々お話させていただきましたが、いまここにいらっしゃる皆さんは、映画のなかでダニエルの過酷な“人質”としての日々をご覧になったばかりで大きな衝撃を受けておられると思います。まず安田さんが初めてこの映画をご覧になったときの率直な感想をお聞かせください。
安田純平さん:私の場合は2012年にシリアの内戦の取材をしていまして、そのときに、映画にも出てくるジェームズ・フォーリーと同じ部屋に一週間くらい宿泊していたので、当時色々話をしました。ジェームズはこの映画のもう一人の主人公とも言えますが、映画の中で彼が動いて話をしているのを観るだけで・・・もうずっとジェームズを観ているような状態でした。彼が本当にかっこいいんですよ。劇中もずっと周りを励ましているじゃないですか。私が取材に行ったとき、彼のほうがシリアに先にいて私が後から入ったのですが、そのとき政府軍の戦車砲がボンボン飛んでいて亡くなった人もいて、「おまえは後から来たんだから先に撮っていいよ」と色々協力をしてくれたんです。とても紳士的でした。日本人の山本美香さんが2012年の8月に亡くなった時も、ジェームズがちょうどアレッポのそばにいたので連絡をとったら、仕事というわけでもないのに色々情報も送ってくれました。
森直人さん:(監禁部屋の中で)彼がチェスを自作して正気を失わずにどう過ごすか、ということも描かれていましたね。
安田純平さん:どうしても悪いように考えてしまうんです。そうなってくると精神的にも身体的にも弱ってくる、だからそういう何も考えない時間を持つことが大切で、チェスやりながらリセットして、ということを考えたのではないかなと思います。
森直人さん:僕はこの映画を観ながら、また安田さんが書かれた本を読みながら、報道と実体のギャップということをすごく考えてしまいました。ダニエルさんの事件があったあと、入れ違いに安田さんが拘束された時期になります。そうなるとシリアの武装勢力の勢力図に変化があったということなのでしょうか?
安田純平さん:イスラム国が大きくなったのは2014年1月からですね、シリアからイラクに入っていって色々な街を占領して大きくなっていった。それまではまだおとなしくしていた。元々アルカイダはイラクで無茶苦茶やって追放されてそのあとシリアに入って復活してきた。それがイラクにまた戻ってデカくなった。2014年に大きくなったあとに、ジェームズの殺害映像とか出して本性を現した。ですから2014年の頃はこれからこの組織にどう対応しようか、というのが世界的に問題になっていた時期です。私が入ったのは2015年、後藤健二さん、湯川遥菜さんがああいった形で殺害されてしまった最後のケースだと思うのですが、多くの国や、シリアのその他の武装組織がイスラム国との対決を始めていた時期でした。
森直人さん:そのあたりのことが僕も含めてよく理解できないところがあります。そもそも安田さんを拘束していた武装勢力の正体はまだはっきりとわかっていないのですよね?