Feb 11, 2022 interview

中田秀夫監督が語る 『嘘喰い』と漫画原作映画への視点

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漫画で描いたこと、映画で描けること

ーー 漫画原作である『嘘喰い』は、どのような経緯で制作されたのですか?

お話を頂いた段階で、ワーナーさんが、ある程度脚本作りに着手されていました。僕が原作漫画を読んだ印象から、内容をもう少し、原作に近づけられるんじゃないかと思いました。その方向で脚本家の人たちと直すプロセスがありましたね。

ーー 原作に寄せるというのは、具体的にどういうところでしょうか。

単純にいうと、ひとつは何をクライマックスに持ってきて、その前に何があるかとかですね。さすがに49巻全部のイベントを入れこむ訳にはいかないので。原作の巻数でいうと、まあ、1、2巻目はすごく重要です。じゃぁ貘の敵役を誰にするか、屋形越えというプロセスをどう描くか、原作の迫先生が考えたユニークなゲームのなかからどれを使って、何をメインにするか、ということを考えました。

カッコつけたことをいうと、主人公の斑目貘という人物の死生観、人生観と言い換えてもいいんですけど、それをきちんと表現したかった。ギャンブルに生き、ギャンブルに死ぬということでもない。でも、イカサマを見破れなくて、ルールに従い命を落としてもそれは仕方ない。そういう生き方が、闇倶楽部「賭郎」という巨大組織を相手にする主人公として、引き立つし、かっこいい。そんな主人公の置き方を迫先生はされたと思うので、そこをなるべく外さないようにしたいなと思いました。

ーー 斑目貘というキャラクターを描くのは大変だったと思います。

まず「賭郎」という非常に虚構性の高い組織を存在するものとして描く。脚本作りに関しては、そこから発想していきました。迫先生からは「とにかく貘は、普段ヘラヘラしてるんだけど、ゲームで逆転を遂げて勝つときに、非常にエグい勝ち方をする」と言われました。相手が虚を突かれたとか、へナヘナになるくらい、嘘を見破って、とことん相手を叩き潰すわけです。「嘘喰いの世界は、知略と暴力で成り立ってるんで」そういうものにしてほしいと頼まれました。

もちろん漫画で描くことと、実写映画で描けることに、どうしたって差異はあります。生身の人間が演じるので、人間としての温度感が出てしまう。この斑目貘っていう人物は、原作では、過酷な賭けをくぐり抜けてクールというか、「冷酷さ」も持つ存在だけども、横浜流星という生身の人間が演じるときに、どうしたって人間の温度感というのは、ゼロにはならない。これは横浜くんと詰めて話してはないですが、微笑んだ印象で、”この人、本当はあったかいんじゃないか”とか、そういうのは出るだろうなと思っていました。漫画とは違うニュアンスが出ちゃうだろうけど、それはそれとして、それで良いのだと思ってやってましたね。

ーー 原作のキャラクター像を優先するのではなく、演者の人間味を活かすということですね。

それを全部封じてしまうと、彼の良さが出ない。とにかく何事も感情を動かされずにクールにやってくれと言うことも、理論上はできますが、それで果たして、人を惹きつける映画になるかなぁ、と。原作だけに寄せるっていうのは、ちょっと難しいかなと思いました。

ーー ですが、横浜さんをはじめ、原作の登場人物たちと映画のキャストがしっくりくるなと思いました。佐野勇斗さん、白石麻衣さん、他のキャストについても教えてください。

白石さんとは、もう2本目ですね。彼女も彼女で、一般的に思われてる白石さんの印象と役柄が全然違う。彼女が演じた鞍馬蘭子は、原作では相当暴力的な人で、暴力団を受け継いだ闇カジノ経営者。だから、乱暴な口調を照れずに、あるいは力を入れすぎずに、女親分的な言葉遣いができるようにお願いしましたかね。

白石さんに限りませんが、横浜くん、本郷奏多くん、櫻井海音くん、村上弘明さんと髪型に至るまで、ルックスでやれることは原作寄せにしてみようとしました。完璧に漫画どおりになるかは、置いておいてね。横浜くんはカツラではなくて、銀髪に髪ごと染めてくれましたしね。佐野くんは、漫画初登場時の梶のように短髪ではないですが、やや普通のお人好し感を出してもらいました。原作キャラクターの背景が、この映画の中における佐野くん演じる梶に反映されきってないですけどdTV版の方で梶のバックグラウンドを描いておりますので、そちらもお楽しみに。