Nov 18, 2022 interview

松たか子インタビュー “さりげない贅沢”を味わいながら幸せを感じた『土を喰らう十二ヵ月』

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作家・水上勉の料理エッセイ「土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―」を『ナビィの恋』の中江裕司監督が自ら脚本も担当し、映画化した『土を喰らう十ニヵ月』。

長野の山荘で山や畑から採った野菜で料理を作り、季節の移ろいを感じながら執筆作業をする作家【ツトム】を演じるのは沢田研二。今作では、一年半がかりの撮影により、大自然の姿と共に旬の野菜を使った数々の料理が登場するが、それら全てを手がけたのは、料理研究家・土井善晴であり、器選びから手さばきの指導まで関わった食卓シーンは見どころの一つと言える。

そんな料理を美味しそうに頬張る【ツトム】の恋人であり担当編集者【真知子】を演じた松たか子は、今回の撮影で一体、なにを感じ取ったのか?役者という仕事への想いも含めて話を聞いた。

―― 撮影は長野県の白馬で行われましたが、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。

私の演じる【真知子】は本当に食べるだけの人なんです(笑)。「季節が変わったら食べに行こう」という感じで、3回か4回に分けて撮影現場である白馬に行きました。沢田(研二)さんは、ずっと出演されているので結構まとまった期間行かれていたので大変だったと思います。

そして何より、家を撮影に使えるような状態にして下さったり、畑を耕したり、その土台作りをして下さったスタッフの皆さん、地元の方々も随分と協力して下さったというお話も聞いています。その土台作りがあったからこそ、私は本当に楽しく、美しい風景を眺め美味しい物を食べて、帰っていくだけでしたので、皆さんには感謝でいっぱいです。

“人里離れた山荘での生活もいいな”とも思いましたが“ここでの生活はそんなあまいものではない、簡単に口にしては駄目だ”とハッと我に返る瞬間の連続でした。そのくらい素敵な場所でした。

―― この映画に出演した理由を教えて頂けますか。

それは、中江(裕司)監督と沢田さんです。中江監督の撮られる映画に声を掛けて頂けたことが凄く嬉しかったですし、沢田研二さんとご一緒出来るなんて「それは是非とも」と思っていたら、さらに美味しい土井(善晴)さんの料理が付いていた感じです(笑)。

実は土井さんがどんな風に映画に参加されるのか知らなかったんです。その前に「中江さんと沢田さんの映画です」と聞いて、面白そうだと思ったんです。それに、これだけの方が大人の姿を描く映画に関われるものなら関わりたい、参加してみたいと思いました。オフィス・シロウズ(制作)さんに声を掛けて頂いたのは、映画『夢売るふたり』(公開:2012年)以来でしたので、再び声を掛けて頂けたことが単純に嬉しくて、飛びついた感じです(笑)。

―― 私はこの映画を観た時、老いた男性の理想の物語に見えました。それがファンタジーのようだったからこそ、“もう男って”と苦笑し、チャーミングにも感じました。松さんはどうでしたか。

中江監督の“こうしたい!”という想いがもの凄いですよね。監督の理想が詰まっていると思います。沢田さんは少年みたいな方で、私は心から“沢田さん、かっこいい!”と思っていて、“モテないわけがない”と思いながら役そのままに眺めていれば良かったんです(笑)。

あるシーンで【真知子】は【ツトム】に「サヨナラ」を言うんですけど、監督に「でも【真知子】は筍が生えた頃、山に戻って来るかもしれませんよね」と伝えたんです。そしたら監督が「【ツトム】は痛い目に合わないといけないんです」と言われて“何でそんなに【ツトム】さんに厳しいんだろう”と思ってしまいました(笑)。

私は女としてなんだかんだいっても【さんしょ】(飼い犬)も居るし、美味しいご飯もあるし、軽い気持ちで「戻ることもあるかも」と言ったのですが、監督は厳しかったですね。そんな監督のピュアなところも映画で描かれていると思います。だから人によってラストの後の解釈が色々とあって面白いと思います。

【真知子】は理想の女性みたいに思われていますが、私はそんな特別な存在として演じるつもりはありませんでした。でも監督自身は、私を通して【真知子】という理想の女性像を描かれていて、そういうイメージを持たれることは決して嫌ではなく、凄く面白かったですね。本当に映画を撮る側も観る側も自由でいい、演じる役者も自由にそこに居る。そういう意味では、年を重ねた逞しい人達や、太刀打ち出来ない自然があったり、本当にこの作品はユニークな作品だと思います。