Nov 18, 2022 interview

松たか子インタビュー “さりげない贅沢”を味わいながら幸せを感じた『土を喰らう十二ヵ月』

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―― 冒頭で【ツトム】が【真知子】の手を触り、その手を【真知子】がさらりとかわす、あの一連の動きから笑ってしまいました。あの動きで【ツトム】というキャラクターがわかりますよね。甘えん坊というか、年齢不詳というか。

素敵ですよね。【ツトム】は演じる人によって変わるキャラクターだと思います。でも【ツトム】は沢田さんでなければいけない感じがします。

私も含め、皆さんそれぞれが沢田さんのイメージを持っていると思います。でも、それとは別に本当に今の姿を切り取って映したのが中江監督です。色々な力がいい方向に向かって切り取られていく。松根さん(カメラ)も私たちの姿、芝居をもちろん撮って下さいますが「自然をこの天気で撮影する」という強い想いを持たれていて、静かな現場でしたが皆さんが強い想いを持って山に集っていました。

とにかくスタッフの方々は、舞台作りが大変だったと思います。この映画に関してはスタッフさんに話を聞いた方が面白いかもしれません。苦労話など山のようにあると思いますから(笑)。そういうのも含めて私たちはそこに行って、ただ居れば良かった。本当に幸せな現場でした。

―― 美術や料理など、一つ一つにさり気ないこだわりを感じました。

こだわっていたと思います。監督が持参した器を映画で使用したり、土井先生もとても素敵な器やお盆を持って来て下さって、欲しいぐらいでした(笑)。こだわりはもちろんありますが、こだわりを持っている人達が与え合うというか、持ち寄って「これ、いいね。これ、いいね」という感じで作品が出来ていく。

わたしが見た限りでは、それが凄く大人というか。ある程度の流儀をおさえないといけない映画もありますが、ちょっとそこから外れた人物が主人公だったおかげで、こだわりはあるけれどもさりげないというふうにすることが出来て贅沢な感じなんです。

「こういう生活っていいよね」と一人でも多くの方が思って、間違って欲しいです(笑)。気持ちよく騙されて欲しいのと、実際に山で暮らしている人たちの姿もきちんと伝わってくれたら嬉しいです。本当に不思議な映画だと思います。オシャレにしようと思っていないのに、オシャレに見える。それは沢田さんの雰囲気や火野(正平)さん、奈良岡(朋子)さんの存在感あってこそ、本当に素敵でした。

―― この映画は季節(十二ヵ月)をじっくりと見せる映画です。四季折々の植物や野菜に教えられている気がしていました。自分が日々、時間に追われていたことに気づかされました。

私も白馬に行った時は、風景を普段よりも無意識に多く見ていたし、パワーをもらっていました。ここでパワーをもらうから都会に戻れたりもするので、生き生きとすることが出来る自分は幸せ者だと思いました。

―― 沢田さんとの共演はいかがでしたか。

沢田さんは、野菜を取ったり、食事を作ったりと、色々な作業をされながらのお芝居なのですが、本当に自然体でした。普段から【ツトム】さんと同じような生活を過ごされている人と話しているような印象を持ちました。

―― 脚本だけではイメージしにくい部分もあったのではないですか。

実は撮影前に監督が沢田さんと私の2人のシーンを抜粋し、2回くらい読み合わせをして下さったんです。何気ない読み合わせでしたが、ゆったりでもなく、わりとテンポのいいトーンの会話を沢田さんと一緒に監督の前で出来たことは“とても良い時間だった”と思っています。

思い返すと監督が持っていらしたイメージが、2人の読んでいる声を実際に聴くことで、そのイメージが変わったり、膨らんだりしたのならとても有意義な本読みだったのではないかとも思います。もちろん撮影現場に行ってみてというのもあると思いますが、2人で言葉を交わす時間を監督は見たかったのかもしれません。私自身もその機会を頂けて本当に良かったです。