『ブルータス』編集長から直々
編集術を学んだ妻夫木聡
大根 でも、撮影前にマガジンハウスの各編集部に取材に行ったんですけど、『&premium(アンドプレミアム)』の編集長の席まわりはかなり面白いなあとは思ったんですよね。
小柳 “それ感”は、かなり出ていました。
大根 『BRUTUS(ブルータス)』の取材に行った時は、西田(善太)さん(編集長)が妻夫木くん相手に2時間くらい編集論を語ってくださって。円を描いて「ここは必ずブルータスを買ってくれる人だとするよね」、「でもこの人たちはどんな特集でも買ってくれる、だからこの周縁にいる人たちを意識しなくちゃダメ。もちろん、それだけやってもダメ。例えば、真ん中だけに特化した企画が『アンコ特集』なんだよ」って。
渋谷 え~っ! なにそれ、僕も聞きたかったな。
岡本さんが編集長だった頃の
雑誌『relax』がベースにある
小柳 チョックンがリアルに仕事をしていたのは『relax』ですよね。(原作や映画の)時代設定とはだいぶズレてしまっているけど、どのあたりをモデルにしたんですか。
渋谷 あの(劇中)の編集部は、(マガジンハウス)本社5階のイメージだったので、『relax』の頃のエピソードはあまり入れてません。でも、岡本さんが編集長だった時代に僕がいたころ感じてたこととか、その時の気持ちなんかは結構入っちゃってるかもしれないですね。
小柳 僕も特に具体的なエピソードとかではありませんが、岡本(仁)さんが編集長だった頃の(『relax』の)マインドや空気感は(映画から)感じました。それにしても、チョックンとは、あの頃、異常なくらいよく会っていたよね。一緒に一週間パリに行ったり(笑)。
渋谷 帝さんの仕事に勝手に連いて行って、一週間、同じ部屋でずっと寝食を共にしました(笑)。レコード屋さんとか古本屋さんとか連れて行ってくれて、めちゃくちゃ楽しくて。もうね、帝さんといると「あっ、欲しかったアレもコレも!」って感じだったんですよ。来年また連れて行って下さい。
小柳 いいですよ(笑)、あの当時はまだ20代前半だったでしょ。
渋谷 そうです、23~24歳くらいです。
「あの時の自分ってカッコ悪かったな」
と思うことを描きたかった
小柳 その頃チョックンがやっていた連載で後に写真集になった『a girl like you 君になりたい。』ではないですが、チョックンの芸能人妄想みたいなものは、あのあたりから始まっていますよね。それは日常的にいつも話しているようなことがベースになっていて、あの頃、毎週のように“僕らの女子ベストテン”みたいなものを付けていたよね?(笑)素人の人も入っていたりしていて。
大根 俺も“芸能人妄想”は、よくやります。「木村拓哉、今、かおりんに会いたいだろうな」とか妄想してます(笑)。
小柳 大根さんも? それはいいコンビですね(笑)。というのは、『奥田民生になりたいボーイ~』も、登場する男たちのある種の妄想を描いていると言えなくもない。付き合っている女性に振り回されるのも、彼女に対する疑心暗鬼や不安、邪推があるからで、それを携帯やLINEやSNSという現代的なツールを使いながらその妄想というか疑心暗鬼が肥大化してくじゃないですか。そこら辺は、チョックンが得意としたある種の“妄想癖”みたいなものから来ているんでしょうか。それとも恋愛において、男性が女性に振り回されるという普遍的な恋愛のパターンを描こうとしたんでしょうか。
渋谷 後者ですね。どちらかというと現象的なものより、ものすごいちょっとした心の機微というか、どうでもいいようなところを書きたいが為に何十ページも使うみたいな、そんな感じがやりたかった。だから原作だと、どこかなぁ、“自分の意見を言ったら、真逆のことを返されて空気が悪くなっちゃった”とか、その時に「またやっちゃったかぁ……」ってなった時の、その「またやっちゃったかぁ」の“ズシーン感”だけが書きたいみたいな、そういうものの集積、みたいなところがあります。だからこの漫画を描く前だったと思いますが、「あの時の自分ってカッコ悪かったな」って振り返ることがあって、そのへんの実体験はいくつか入ってるんですけど、でも描きたいことは男女の関係に限らず、心の一瞬の「うーん」と唸っちゃうところをねちっこくやりたかったというか。
小柳 なるほど。要は、恋愛に限らず、自分の頭の中でぐちゃぐちゃ考え込んでしまう時の「こじらせ感」みたいなものというか。
渋谷 というか、「揺れる想い」の揺れてるとこを、よりブンブンするような感じ(笑)。“♪カラダ中、感じて〜♬”、って。
小柳 (笑)……ということは、主人公の職業は、突き詰めれば編集者じゃなくても良かったということですか。
渋谷 いちばん大元の設定としてはなくてもよかったですね。