Sep 16, 2017 interview

渋谷直角×大根仁監督 俺たちが“民生ボーイ”だった時代

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おしゃれ雑誌の編集者コーロキが、美人広報の天海あかりと出会って人生の歯車を狂わされていく映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』。カルト的な人気を持つ渋谷直角の原作漫画を、サブカル青春映画の金字塔とも呼ばれる映画『モテキ』の大根仁監督が、妻夫木聡&水原希子を迎えて実写映画化した待望作が、いよいよ今週末公開される。

大根監督が「この漫画が酷い!2013」と称賛した渋谷直角の前作コミック『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』のシニカルさはどこから生まれたのか。作家本人曰く「そもそも僕は全然シニカルじゃない」と説明する本作の意図、そしてどのように本作へとつながっていくのか。

本作の背景として描かれている伝説的なカルチャー雑誌『relax』で渋谷直角とライター時代を色濃く共にした小柳帝が、渋谷と大根監督に映画の裏話やマガジンハウス編集部潜入取材などについて、じっくりと話を聞きました。

 

イラスト画©渋谷直角

イラスト画©渋谷直角

 

僕は全然シニカルじゃない
むしろ、愛しかない。

 

小柳 ところで、チョックンは、『relax』のあと、ライフスタイル誌の仕事もやっていたんでしたっけ?

渋谷 僕は全然やってないんです。でも雑誌は大好きだったし、普通に『クウネル』とかも買っていたんですよ。

大根 意識高いなぁ。

渋谷 それは『POPEYE(ポパイ)』でも何でも変わらなくて、雑誌は全部好きですね。だから関さん(今回のカメラマン、原作漫画にもその名前が登場)もそうですけど、いまでも雑誌の仕事で繋がっている人も多いですね。

小柳 『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべてを狂わせるガール』は『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』のようにシニカルな部分も出てくるけど、これは本気の作品だなと思いました。

大根 意地悪や皮肉だけでは終わっていない。

渋谷 そうですか? 僕は全然シニカルな人間だと思ってないです。むしろ、愛しかない。

小柳 あははっ(爆笑)

大根 (笑)いやいやいや、ヒドい時あるよ。「酷すぎる……」っていう時、あるよ!

渋谷 まあ、あるか……、あるよね(笑)。『ボサノヴァ〜』のときはその、「ツライけど、その先どうしていくか」みたいな部分をあまり描けなかったな、ってところもあって。当時の自分の能力ではそこをムリして描くと、それまでの苦しみがぜんぶウソっぽくなるというか、キレイごとになっちゃうなと思ったんですよね。だったらウソじゃないほうがいいと思った。そのぶん、シニカルさがよりいっそう際立っちゃったとこもあったと思います。

 

後編㈪_MG_2269

 

『ヴィジュアル・サンプラー』は
ある種の象徴じゃないですか

 

小柳 (今回の映画のセットで)ちょっと笑っちゃったのは、編集長のデスクの後ろのほうにマイク・ミルズの『ヴィジュアル・サンプラー』(※②)があったんですが、あれはどなたが置いたのですか? (※②:12インチレコードのパッケージで、ポストカード、ステッカーなどを含む8枚のシートと1枚のポスターで構成されたグラフィック・アーティストでもある映画監督マイク・ミルズの初期作品集。Mo’ Waxから1996年にリリース。音楽、アート、ファッションと等身大のストリート・カルチャーが混合したジェネレーションX世代の象徴的作品)

大根 (笑)あれは自分の私物です。

小柳 どうしてもあれが目に飛び込んできちゃいました(笑)。僕は『relax』の後、『クウネル』や『&premium(アンド プレミアム)』のようなライフスタイル誌でも仕事をさせてもらっているんですが、あの編集部のセットは、小道具的に言うと、当時の『relax』っぽさがあったなと。

大根 あれは自分のデスクの後ろに飾っていた時もあったし、自分自身の思い入れもあります。ある種の象徴じゃないですか。

小柳 そういったマガジンハウスのカルチャー誌のDNAみたいなものも感じられるような演出は、誰の仕業だったんだろう?と思いました。

渋谷 こういうのって、なかなかニュアンスを共有しにくい部分だったりもしますからね。置いているものとか場所ひとつで説得力みたいなのが、ぜんぜん変わってきたりするので。