Feb 08, 2017 interview

小日向文世と矢口監督が過酷なサバイバルロケの裏側を語る

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役に立つ!? サバイバルグルメ談義

 

──矢口監督、撮影する前に東京−鹿児島のルートを監督自身も回ったと聞いています。

矢口 僕は自転車で走破したわけではありませんけど、どういうルートを鈴木家の人々は辿るのか、自分自身で体験しておきたかったんです。こんなところで水を手に入れたんだなとか、ここからは富士山が眺められるんだなとか。その間は非常食を食べるようにして、サバイバルツアーがいかに過酷かを身を持って体験しようとしました。

小日向 えっ、本当に非常食を食べ続けたの?

矢口 最初は非常食だけで鹿児島まで行けるか試してみたかったんですが、実は……3日間で断念しました(苦笑)。初日から、3食続けて非常食だと精神的につらくなってきたんです。栄養は足りていても、冷たくて味気ないものばかり食べていると気分が落ち込んでしまいますね。温かいものを食べると、すごく幸せな気分になることをしみじみ感じました。劇中では飲料水の代わりにバッテリー補充液を飲みますけど、あれも僕たちがホームセンター内で飲めそうなものとして見つけたものです。3人で飲んでその日一日誰もお腹を壊さなかったので、脚本に取り入れることにしたんです。

 

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──サバイバルツアー中、鈴木家はネコ缶を主食にしていましたが、ネコ缶のお味はいかがでした?

矢口 ネコ缶はけっこーイケますよ。でも僕が食べたネコ缶はちょっと塩味が効きすぎていた。ネコに食べさせるには塩分の摂りすぎにならないか、ちょっと心配ですね。

小日向 僕は実際にはネコ缶は食べてないんです。僕が食べていた缶詰の中身はツナでした。息子役の泉澤祐希くんは本当にネコ缶を食べていたけど、「すごく生臭い」と言ってた(笑)。

矢口 僕がそのシーンのOKを出した後、深津絵里さんがなぜか「私にも食べさせて」と味見していたのが印象的でしたね。

小日向 うん、深津(ふか)っちゃんもネコ缶を食べていた。彼女は食に関して貪欲なんだなぁと感心しました。

矢口 違いますよ!女優として役づくりしてたんですって!(笑)。息子が食べたなら、母親役である自分も口にしようという武士道的な精神を深津さんには感じました。それをただの食いしん坊みたいに……。

小日向 そうか、そうだったんだ(笑)。

 

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──『真田丸』(NHK総合)では天下人・豊臣秀吉役が好評だった小日向さんですが、一転して『サバイバルファミリー』では果てしなく自転車を漕ぎ続け、野宿する悲惨な生活に。いちばん大変だったシーンは?

小日向 川渡りとブタの捕獲シーンも辛かったけど、台本を読んで「嫌だな」と思ったのは食べるものがなくなって、芋虫を食べようとするシーンがあったことでした。矢口監督からは「アゲハ蝶の幼虫を食べてもらいます」と事前に言われていて、実際には食べないまでも芋虫に触ることすら僕はできないので、本当にどうしようかと悩みました。アゲハの幼虫って、触れると黄色い触角がニョキッと伸びて、変な匂いを出すんでしょ? いやだなぁ、触りたくないなぁと。それでロケ中はずっとスマホでアゲハの幼虫の画像を眺めて、少しでも慣れるようにしていたんです。それが東京から送られてきたアゲハの幼虫が小さすぎて、矢口監督が「使えない」と判断して、意地になった助監督が、僕が一番嫌だと思っていたシマシマ模様の芋虫を用意したんです。どうしようかと心配したんですが、撮影では何とか触ることができました。本番になると意外と平気になるもんですね(笑)。

矢口 すごくかわいい芋虫でしたよ。

小日向 芋虫ってちっちゃくて繊細な生き物なんだなと思いました。それから、蝿ね! 僕の顔に蝿が付いているシーンがあるんですが、あの蝿も本物。蝿を冷やしておいて動きを鈍くして、僕の顔に乗せたんですよ。蝿がずっと僕の顔を歩き回っているのを我慢しなくちゃいけなかった。しかも、矢口監督、「小日向さん、もう少し口を大きく開けてください」って言うんですよ。あれ、僕の口の中に蝿が入るのを期待してたでしょう?

矢口 お陰でいいシーンになりました(笑)。

 

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「ドキュメンタリーを見てるみたい」が最高の賞讃

 

──『スウィングガールズ』では女子高生たちがイノシシと格闘したしたが、今回は小日向さんがブタと格闘することに。

矢口 『スウィングガールズ』のイノシシは本物じゃありませんでしたが、今回は本物のブタを使っています。ニセモノは使わない、CGも使わない、が『サバイバルファミリー』の原則だったんです。

小日向 ブタを捕まえるシーンはテストなしの一発撮りでしたね。

矢口 テストしても意味ないでしょう(笑)。

小日向 いや、本当に大変でしたよ。ブタに振り落とされたときに、胸を強打したんです。あぜ道が固くてすごく痛かったけど、カメラを止めるわけにはいかないから、必死でブタを追い掛け続けましたよ。翌朝からくしゃみをする度に胸が痛くて。あれは確実に胸骨にヒビが入っていたと思う。でも、病院に行ってもテーピングされるだけだろうから、ぐっと我慢しましたけどね。

矢口 絶対ヒビが入ってるって言うんですよ。あまり信じてませんでしたけど(笑)。

 

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──劇映画というより、ドキュメンタリー映画のようですね。

小日向 ほんと、そうですよ。

矢口 「ドキュメンタリーを見ているみたい」という言葉が、僕はいちばんうれしいんです。脚本は用意しているけど、半分はドキュメンタリーっぽくなることを目指していたので、そういうふうに感じてもらえるとありがたいですね。撮影方法も序盤は三脚を使って固定カメラできっちりと撮っているんですが、電気が消えてからは手持ちカメラを使ってドキュメンタリータッチで進めたんです。夜のシーンも照明を使っていることを感じさせないようにしました。

小日向 トンネルのシーンは、いっさい照明使ってないから、真っ暗で何も見えなかった。声しか聞こえなかった(笑)。

──スクリーンが真っ暗になったので、映写システムの故障かなと一瞬驚きました。

矢口 劇場公開はまだしも、テレビ放映されるときが心配ですね。「放送事故だ!?」と騒がれるかも(笑)。